606の息抜き 其の壱拾六
 ■1月6日(日曜日)■

 『606の息抜きシリーズ』も今回で16回目となりました。 今年も何気に更新します。

 このシリーズをアップすると必ず思い出すのが、「お前って毎日とは言わないけど…毎週日曜日が息抜きじゃね〜の?」と言われた事。 あははは! 間違ってないですわ! セブンに乗ってさえいれば幸せ♪ 頭の中が『無』になるし、ストレスも消える。 大好きで大切な仲間と飲んで喋ってるのも、これまた幸せだしストレスも発散できて息抜きになる。 もっと細かく考えてみると、仕事の途中で一杯のコーヒーを飲んでる時だって『息抜き』になってる。

 だけど… だけどね、本当の息抜きってセブンに乗る事とかじゃなくて、『自分が自分に戻る事』それが息抜きだと思ってます。

 平日は(暇な時もあるけど)仕事に集中してます。 そんな事は皆そうだし…当たり前の事ですね。 朝起きてから寝るまで仕事の時期もあります。 そんな時は息抜き(休憩)なんて考える事なく働いて、息抜く間もなく寝てしまう。 自分が自分じゃなくて… 自分が自分じゃない事が嫌になってしまう。 そんな自分もある程度の限界を超えると(慣れてしまうと)、自分が他人に思えてしまい…自分が2人存在する。 『優しさ』を忘れた自分が登場してしまう。

 『優しい人』『善い人』を売り物にして生きていく事は嫌い。 だけど他の人からは『優しい人』『善い人』と思われたい。 矛盾だらけの自分は否定できないです。 時々、自分ってどんな人間なのか… 他人になって自分を見つめてみたいと思う事があります。 若い頃は全然思わなかった事。 それだけジジ臭くなったのかなぁ? 死期が近づいてるのだろうか?

 チキチキ通信を立ち上げて…ろくでなしで脳天気というラベルを額に貼って過ごしてる606。 そんな606だって悩み続けてた3年間がありました。 その3年間… もしチキチキ通信を立ち上げていたのなら、間違い無く『606の息抜きシリーズ』は『其の壱拾六』どころではなく『其の壱百六』ぐらいに達していたかも知れない。 

 題名でもある『息抜き』は、バラしてしまえば…『生き抜く』という事。 『生き抜く606 其の壱』とかじゃ〜タイトル重過ぎるよね! 息抜きは軽過ぎるけど… 結構『愚痴』とか『弱音』を吐いてる報告書のシリーズだという事は隠せない。 

 このシリーズの壱百六と壱拾六の差である『九拾(90)』は全て伊良湖岬の『大浅利屋』さんでの話になります。 ゴメン… 90は言い過ぎました。 半分くらいです。 3年間強、それぐらい通ったかもね! 
 最初に大浅利屋さんにセブンで行った時からストレス全開。 普通なら独りぼっちでこんな雰囲気の店に入るのは抵抗ある。 だけど、その頃の自分は『独り以下』だった。 幸せの頂点に立ち、やり甲斐や希望に満ち溢れた日の翌朝から生きる力を失っていたから…相当小さな人間でしたね。 別に現在デカくなったかと言えば、中身空っぽで態度だけデカくなってるのかも! そんな…今思えばナメクジみたいな606を伊良湖岬にある大浅利屋さんの大将は鋭く見抜きました。

 「伊良湖岬で自殺なんかせんどいてくれよ!」

 目は口ほどにものを言うのか? 何も喋っていないのに正直驚いた。 初対面で…しかもイカを焼いてる人に言われて心拍数は倍くらいになった覚えがあります。 その時は「変なオヤジだなぁ!」ぐらいにしか思わなかったけど…帰り道も、帰ってからも妙に気になって仕方ありませんでした。

 毎日が嫌というよりも悲しかった。 仲間と喋ったり走りに行ったりしてストレスは発散できたけど…根源が解決する事はなかったですね。 ある日、仕事に行くフリをしてセブンで出かけました。 ステアリングは無意識に伊良湖岬に向いてました。  セブンに乗ってても100%笑顔になれなかった時代。 単なる気晴らしでの運転。 それでも何故か大浅利屋さんでは笑顔になれる。 メニューなんて少ないから黙ってても食い物はネエさんが持ってきてくれる。 「おう! 暴走族が平日の昼間っから遊んでて良いのか?」 口は悪いけど…優しくされるよりは嬉しい。 大将も笑顔で付き合ってくれる。 僕がポツリと愚痴をこぼせば…たった一言で全部消し去ってくれた。 

 なにをしょーもない事で僕は悩んでいるのか!

 それからはちょくちょく行きました。 僕の愚痴をいい加減に聞いてるようで… 返す一言は毎回的を得ていた。 ネエさんは聞いてない素振りで…いつもうなずいてた。 考えてみたら愚痴ばっかりだったかな? 伊良湖岬往復でセブンを楽しみ… 大浅利屋さんで海の幸を楽しむ日々の繰り返しで『息抜き』ならぬ生き抜く事ができたのかも知れない。

 大将には嬉しい報告をした時があった。 それはそれは喜んでくれた。 ネエさんも涙流して喜んでくれたけど… わずか数ヶ月で最悪の報告をしなければならず… それからは行く事が辛くなった。 
 しばらくしてから一度ツーリングで行ったけど… お互いに気が引けて何も喋らなかった。 ネエさんは一生懸命優しくしてくれた。 それは嬉しかったけど… 「もう来ちゃだめだよ。頑張りなよ。」という感じだったので… それっきりになった。

 2年前の暮れに『伊良湖岬ツーリング』と称して伊良湖岬に行った。 最初は大浅利屋さんに行くつもりは無かったけど… ドキドキしながら頑張って働いてたネエさんに声をかけてみたら、「おう! 暴走族が久しぶりにきたぞ!」と相変わらず悪い口調で受け入れてくれた。 そんな口調が嬉しかったけど… 帰り際に聞いた大将の不幸。 30日前に亡くなっていたなんて… 【詳しくはこちら】 

 今日、1月6日。 606号に酒を積んで大浅利屋さんまで行ってきた。
2年という月日は無かったはずの建物が建ち並び、無かったはずの道路が開通して地図を塗り変えてました。
しかし伊良湖岬周辺は相変わらず素敵なオーシャンビュー! 綺麗だった。 
そして到着した大浅利屋さん。 ネエさんは買い物中だったので、在りし日の大将の写真が一番良く見える席でアサリを食べながら思い出に耽った。

 ネエさんが買い物から帰り、元気な姿にちょっぴり感動。
酒は大将の写真の横に丁寧に置いてくれた。 
ゆっくり話がしたかったけど… こんな素敵な行楽日和では客がひっきりなし。 僕は元気に働いてる姿を見てるほうが嬉しかったです。 それでも気を使ってくれて、「ごはん炊いたで食って行け!」「味噌汁も飲んで温まって行け!」と言ってくれた。 笑わせてくれたりツッコミも入れてくれた。
それだけで十分。 元気な笑顔さえ見れれば、僕も元気になれる。 結局…忙しそうだったので御飯も味噌汁も頂かずに帰る事にしました。
 おあいそを頼むと「座っとれ!」「ゆっくりしてけ!」と名残惜しんでくれたけど、帰らなきゃね。

 帰り際… 「夏にまた来ます!」と僕が言うと、「それまでにまた来い!」と言ってくれた。 ちょっぴり泣けた。
普通なら「うん! 待っとるでね!」という返事ぐらいだろう。 『それまでにまた来い!』 素敵に優しい言葉だった。

 606号に乗り込むまで話しかけてくれた。 そんなネエさん… 今年で80歳。 僕にとっては祖母にあたる年齢だけど、歳の離れたかけがえの無いネエさんです。
 素敵な時間をありがとう!!

 大将は今年の9月で3回忌。 今日は久しぶりに二人の顔が見れたので本当に嬉しかった。
息抜きして生き抜く!! 息抜きできなかったら生き抜けない!! 今は海がそう教えてくれる。 大将の海が…。

by606