96 糧食班勤務 其の四 |
支援直で食器を洗い終わると白衣のズボンの膝から下はびしょ濡れになります。 しかも長靴の中もジワっと冷たい。 長靴は使い回しなので、今まで使っていた人の臭い付き! 長靴の中が濡れて蒸れるとスッゲー臭いから頭にきます。 食堂の中ではいろんな臭いがするので、さほど悪臭は気になりませんが… 居室に戻って靴下を脱ぐと、その悪臭で目まいがするほど。 白衣なんて切った魚の身や鱗や血が付いて酷く臭いので毎日洗わないと耐えられません! 午前3時半に目覚まし時計の段々トーンという懐かしい機能で目が覚めました。 目覚まし時計で起きるのはどれくらい振りだろう? 思えば起床ラッパが目覚まし時計の日々。 目覚まし時計の電子音はなんとも味気ない人工的な音だ! 入隊当時は起床ラッパで『ドキッ!』として飛び起きて一日が始まっていたのに… ピピピ♪ ピピピ♪ ピピピピ♪ 夢の中で何かが鳴ってるかの如く、気合の入らない寝起きだった。 しかも真っ暗! 僕だけ生きてるみたい。 静かにジャージに着替えて白衣を持って居室を出た。 深夜の廊下はスッゲー不気味。 スリッパのペタペタという自分の足音が気になるから、つま先だけで泥棒のように歩いて外に出ました。 すでに食堂は電気が点いています。 人の気配がします。 「おはようございます。」と、まだしっかり目覚めていない状態で更衣室に入りました。 全員無言で着替えている。 早めに来た隊員は座敷で二度寝してるし…。 班長は機嫌が悪いのか?気合が入っているのか?分からない状態でムスッとしてタバコを吸っている。 妙な空気に包まれた狭い更衣室。 ただただタバコの煙を我慢して指示を待つだけでした。 「うっしゃっ! 始めるか!」と班長がタバコを吸い終えて言った。 まず厨房に整列。 班長が各個に指示を与えた。 それはそれはテキパキとしていて、誰もがサッと動ける無駄の無い指示と動きでした。 「本多は飯の炊き方を教えてもらって覚えろ!」と… 「え?今から?」 「今から教えてもらって直ぐに覚えられるものなの??」 とりあえず400人分ぐらいは一度に炊ける機械が2つ並んでいる横で洗米作業から教えられた。 もちろん手で米を研ぐのではなく、噴水みたいに米を水と一緒に汲み上げては落として、また汲み上げては落として研げるスッゲー合理的且つスピーディーな洗米機の使い方を覚えた。 研ぎ過ぎても甘くても御飯が不味くなるらしい。 お酒みたいに研げば研ぐほど美味くなる気がするけど… これも勉強です。 研ぎ水が透明になる直前ぐらいがベストだと教えられた。 その後で演習でも登場した麦稈(ばっかん)に研いだ米を枡で量って入れて、水を注ぐ。 この水の量で御飯の硬さがおもいっきり変わるから恐ろしい。 下手したら全部カチカチバサバサの御飯になったり、ビチャビチャのお粥みたいな御飯なる。 水の分量は手を入れて手首までがこれまたベストらしい。 そんないい加減な量り方で大丈夫なのかと… その時「これってスッゲー責任の重い仕事じゃん!」と気づいた。 朝飯は少ない人数なので麦稈6個ぐらいでOK。 意外に楽な仕事でした。 その麦稈6個を巨大な金庫みたいな機械に入れて頑丈なハンドルで扉をロックをします。 この機械はボイラー室から送られてきた蒸気が入って、その熱と圧力で米が炊ける仕組み。 いくつもあるロックを全て閉じたら、蒸気を抜くバルブを閉めて、蒸気が入るバルブを開放します。 どんどん圧力計が上がっていく。 「今、ロックが外れて扉が開いたら食堂は吹っ飛ぶぞ。」と言われた。 「何が言いたいか分かるか?」 「このあとでキチンと蒸気が入るバルブを閉めて、キチンと蒸気を抜いてから扉を開けないと、お前は御飯と一緒に吹っ飛んで即死という事だ!」 (T。T)怖ぇ〜! 御飯を作るのって命がけなんだ。 厨房で味噌汁やおかずが順調に出来上がった頃に御飯も炊けました。 手順に従い、指差し確認をしながらバルブを閉じて、蒸気を抜きます。 凄い勢いで蒸気が抜ける。 まるで機関車の如く。 圧力計がゼロになったのを確認してロックを解除。 蓋を開けたらムワァ〜っと炊きたて御飯の香りが蒸気熱と一緒に顔を襲う。 専用の分厚い皮手袋を使って熱々の麦稈を取り出します。 すぐに麦稈の蓋を開けて炊き上がった御飯を攪拌(かくはん)。 これがまた顔が熱いのなんのって! 全ての麦稈を攪拌し終わると、その中で一番上手く炊けた御飯を保温ジャーに移します。 この一番上手く炊けた御飯を幹部が食べる仕組み。 それは御飯だけに限らず、おかずも全て特別にキレイに盛り付けて… おっと! 盛り付ける前にキレイな食器を選んで使うのも幹部への心遣い。 「くそったれ!」と思ったけど… これが縦社会の自衛隊。 全ての準備ができて飯ラッパを待ちます。 だいたい時間通り。 午前6時半には出来上がりました♪ by606 |