95 糧食班勤務 其の参

 「♪包丁い〜っぽん さらしに巻いて〜♪」と…  包丁を握ると歌いたくなる昭和男児。

 自分専用の出刃包丁を渡された。  もちろん使い古された包丁だ。  毎朝砥石で包丁を研ぐ仕事から始まり、使い終わったら綺麗に洗って滅菌庫に格納する。  食中毒が発生したら駐屯地は全滅ですからね。  だからもの凄く衛生面では厳しかったです。


 まず爪が伸びていないか班長からチェックされます。  OKなら手を洗って、独特の匂いがする青い光を放つ滅菌庫から自分の包丁を取り出して、砥石で包丁を黙々と研ぎ始める。
 粗い目の砥石でしっかり研いだら、仕上げ用の目の細かい砥石を使って更に切れ易くします。

 包丁すら握った事がない僕は、もちろん研いだ事すらありません。  隣で研いでいる隊員のマネをして研いでいたら班長に怒鳴られた。

 「くぅおらぁ本多ぁ! そんな研ぎ方じゃあ鈍ら包丁(なまくらほうちょう)にしかならんぞ!」と…  砥石に対して包丁を当てる角度や力の入れ具合を二人羽織状態で教えてもらいました。  ホモかと思ったわ!


 一日使えば錆が発生する鉄の包丁。  研げばピカピカに輝く♪
 「紙が違和感なくスパッと切れるぐらいに仕上げろ。」と言われた。  そんな包丁はありえない!  って思ったら、班長が研いだ包丁は見事に一枚の紙をスパッと真横に切り裂いた。  真剣かと思ったわ!


 たった数分の間に初体験やら驚きがあって糧食班ってスッゲー面白い♪と思いました。


 続いて切り込み!
 じゃがいもなどは専用の機械にドサッと入れて、簡単に大量に皮が剥いてしまう。
 にんじんはピューラーとかいう道具で面白いように皮が剥ける。
 皮が剥けたらフードスライサーの刃を調整して入れれば、好きな厚さや長さに切れて出てくるから面白い。  小口切りだとかイチョウ切りなどパラパラパラパラと降ってくるように出てくる。
 大根のツマでさえサーッと作れちゃう♪  面白い。  スッゲー面白い。


 包丁は魚を三枚に下ろす時や細かい仕込みに活躍しました。  優しくはなかったけど班長が手取り指取り教えてくれたよ。  足は使わないもんね。


 翌日が本直(調理配膳)となるので、材料は出来たモノから大きな冷蔵庫に格納します。  朝食の棚  昼食の棚  夕飯の棚  上から順番に間違えないように並べて格納します。
 

 いや〜ぁ〜料理の下ごしらえって楽しいものですね。  
 昼飯の食器洗浄を挟んで午後からも切り込みや下準備をします。  作る量が少なかったり、簡単なメニューだと午後からは夕飯の片付けで終わる事もありました。  作る量が多かったり、面倒なメニューだと昼休み返上で下準備をした事も多々あったよ。
 休憩時間や時間外に働くのを毛嫌いする特別国家公務員。  休憩が無かっただけでイライラするのは自衛隊ぐらいじゃないかな?  損した気分になるから不思議です。  だって…働いても働かなくても給料は同じなんだもん。


 全ての準備が整ったら終わり。  ヤル事だけやったら終わり。  『支援直』と言えど『本直』の支援なんてしません。  他班は他班で責任持ってすればいいだけの事。  これもサッパリしてていいね!


 食材の切込みをしながら本直の様子を見てました。  夕飯を作り終わる頃には皆ヘロヘロに疲れきっている。  明日は僕たちがヘロヘロに疲れきるのだろうなぁ。
 
 料理なんてインスタントラーメンやレトルト、焼くだけのハンバーグ…  一番凄いのでもママースパゲッティーぐらいしか作った事がない。  僕は明日いったい何をさせられるのだろうか??
なんと言っても午前3時半起き。  目覚まし時計も日曜日に姫路市内の時計屋さんで買って準備してある。  現在なら携帯電話のアラーム機能でなんとでもなるのに…  あの頃は目覚まし時計1つ買うにも浪漫があったなぁ。


 嗚呼、3時半起き。  起きれなかったら中隊の当直を起こすハメになる。  居室では大勢が寝てるから目覚まし時計も長く鳴らせないし…  変な緊張感を背負って寝た記憶を今でも覚えています。  明日は本直勤務です!
by606