91 新隊員教育隊を受け持つ 其の六 |
こうなると俄然ヤル気になるのが僕。 一年近く中隊でいろいろやってきて、僕が僕なりに弾き出した答えは『どうせ(仕事を)やるなら楽しくやろう!』という考え。 これまでは新隊員に腹が立ち、班長と班付をはじめとした教育隊そのものにも腹を立てていて『楽しくやろう!』なんて考えは微塵もありませんでしたね。 それがたった一回の宴会で新隊員も僕も『楽しくやろう!』という考えになった。 教育隊の移動は3歩以上は駆け足! それは忘れていない。 だけどそれ以上に必要な事は発射機の整地撤去じゃなかろうか? 隊舎から訓練場までの移動に駆け足&回れ進めを繰り返して、発射機の前に到着した時には汗びっしょりで疲れ果てた状態で訓練なんてできるワケがない。 それは僕も一年前に身に沁みて覚えている。 嫌だった事を今度は僕がやらせていた。 教育隊の移動が徒歩だった事に対しての批判や不評は相次ぎました。 相変わらず「胃が痛む」と称して通院を繰り返していた水野3曹からも叱られたけど… だったら水野3曹が率先して指導すればいい事。 暑く苦しい一日の訓練も、宴会以降は涼しい訓練としました。 完璧にできたら一回で終わり。 芝生の上に座って他のチームの整地撤去を見学する。 これも批判・不評を買いました。 僕が前期教育隊から此処に来る前に班長に言われた事。 「後期教育隊は前期よりも楽だし、自由時間は多いでな!」 それがどうだろう。 前期も後期もさほど変わらぬ厳しさと不自由さ。 前期教育隊の班長に厳しさのあまり電話で愚痴を言ったほどだった。 きっと今の新隊員もそう思っているのだろう。 自分が厳しくされたから、こいつらも… そんな気持ちが最初から宴会前の状態までに繋がったに違いない。 自分の感情だけで厳しくやってきた2ヶ月間を悔やみました。 『どうせやるなら楽しくやろう!』 訓練中も課業後も新隊員の全員の表情が明るくなり、雰囲気も良くなった。 発射機の整地撤去に関しての進歩は目を疑うほどの上達ぶり。 基本教練も「ビシッ!」と効果音が出るほど美しく… 各人が発する号令も大きくなった。 1番手と2番手が打ち合わせでもしたのか?と思わせる息の合った号令と、それに伴う動きがピッタリになっていたのが何より驚いた。 それは見る者全てが「美しい!」と思えたに違いない。 実際、この訓練は学芸会! 見た者が「美しい!」と感動すればイイだけの事。 美しい整地撤去を芝生の上に座って見ていた他の新隊員も、すぐに真似してやろうという気になるから面白かったです。 転がり続けて落ちるのは簡単だし楽だけど… 底から抜け出すのは難しい。 でも抜け出して頑張ろうという気力さえあれば、いくらでも上昇できるという事を新隊員から学びました。 新隊員が楽しければ僕も楽しい。 久保田士長は今でも終礼後に新隊員に媚びを売っているのかな? それで自分の評価が上がるとでも思っているのかな? その事をとがめる気は全然ありませんでした。 人の悪口を言って自分の居場所を確保したければ好きなだけ悪口を言えばいい事。 水畑3尉以下の教育隊関係者からは相変わらず無法者という目で見られたけど、先任陸曹のおじいちゃんは温かい目で見守ってくれてました。 それも僕にはパワーになった。 結局、班長二人は何もせず状態で、久保田士長に関しては新隊員達にイイ顔してるだけの3ヶ月。 最悪なのは水畑3尉。 訓練の様子もほとんど見に来ないでエアコンの効いた事務所に引きこもりだったもんね! 羨ましい仕事だよね。 それでも給料は僕たちの倍以上。 それが自衛隊。 前にも書いたけど、この水畑3尉はこれより4年後に自衛隊を震撼させる事件を引き起こすのですが… それを今すぐに書きたいくらい! そしてゆっくりと後期教育終了の検閲の日が近づいてくる。 検閲官(駐屯地指令以下数人)の前で2台の発射機を用いて3回の整地撤去を繰り返す。 それは天気に関係なく雨でも行う。 普段どおりにやればいいだけの事なのだが、2台の発射機を同じように動かして見せるのも学芸会の1つ! 見せ場は多いほうがいい! だがこれは訓練では実行できない事。 上手く隣のチーム同士が間を考えて行えばできる事なのですが、過去にこれを成功させた班長はなかった。 そうなると成功させたくなるのが僕の悪い癖でして… ついつい発射機の整地撤去にかかる時間を6組それぞれ計って似た早さのチーム同士で行える事を企んだ。 教える事はなくなったので、いい暇つぶしになるし…これぞ一石二鳥♪ by606 |