85 新隊員教育隊を受け持つ 其の壱 |
各地の駐屯地から集まった1年後輩となる新隊員18名。 ガラの悪い奴が多かった。 1年後輩となるワケだから、ほとんどの隊員が高校を卒業してすぐに自衛隊に入った奴らばかり。 時はバブル期! 自衛隊は景気が良い時はろくでもない人間が集まり… 今のように景気が悪い時は違う意味でろくでもない人間が集まる。 景気が良い時は企業が人材をどんどん受け入れるので、それすらも受け入れられなかった人間が入隊する。 景気が悪い時は企業が人材を全然受け入れないので、お利口さんな人間が入隊する。 前者は労働者タイプ。 後者は管理者タイプ。 陸上自衛隊には前者のほうが好まれるワケでして… 一概には言えませんが、そうなるとやはり中学・高校で問題があった奴が多いワケでして… 学生時代の反抗期の延長線で自衛隊に就職した感じの奴らが多かったです。 一年後輩を見て、自分らもそうだったのかな?と気づかされたのが正直なところ。 教育隊での一日目は自己紹介とこれからの日程の紹介。 午後から駐屯地の紹介。 朝礼後は座学と称して教育隊長から順番に自己紹介から始まりました。 防衛大学を出た水谷3尉はもちろん、長年やってきた班長や久保田士長はなにかしらの肩書きや話をするネタがあったのですが… 僕は部屋で下っ端生活を同期生の倍やった事ぐらいしか話のネタはありません。 笑いをとろうとして滑ってもナメられるだけだと思ったので、「ちょうど一年前は君達が座っている位置にいました本多1士です。」とだけの自己紹介に済ませておいた。 18名全ての自己紹介が済んで、やはり18名ほぼ同い年。 中には高校を中退して建設会社に勤めたけど退職していた隊員もいた。 「あれ? 自衛隊って高校を卒業していないと入隊できなかったのでは??」 こんな裏技が使えたのもバブル時代特有。 18歳以上ならどんな人でも自衛官募集中! しかも99%以上の合格率! そんな自己紹介も不良少年をヤメられない年頃の隊員にとってはダルイだけの時間。 出身地・名前・生年月日を言った後に趣味や特技を言うようにしてあっても、「趣味、音楽鑑賞」と馬鹿の一つ覚えでしか自分をアピールできない腐ったミカンな隊員ばかりだった。 ウォークマンで音楽聴いてるだけじゃん! 自己紹介を聞いてる僕でさえ腐ったレモンになりそうでした。 これも1年前の自分を見ているようで…正直辛かったなぁ。 つまらない自己紹介が終わったところで、今後の訓練内容を水野班長が説明しました。 小林班長は聞いてるだけ。 僕と久保田班付は新隊員が居眠りしないように監視します。 こういった座学は基本的には睡魔との戦い。 学生時代なら気楽に居眠りできるけど、ここでは許されません! 名目上『市民からの税金で給料を貰っている』のだから、居眠りはタダ飯に値します。 そんな事を思うようになった自分って…立派な自衛官? それでも退屈な座学では次々と机の上にダウンします。 僕らの時代は即腕立て伏せ! だけどそんな事をしたって時間の無駄で意味がありません。 寝ている隊員の肩を叩いて何気なく起すのがベターだと僕は思っていたので、背後から肩を叩いて起して回りました。 しかし、あまりに居眠りしてしまう隊員の多さに水野班長はブチ切れ。 「お前ら全員外に出ろ! 目が覚めるまで駆け足だっ!」と… やっぱり一年前と同じパターン。 のんびりと気楽な座学は一転して体力練成訓練。 「本多と久保田で駐屯地内を走らせてこい!」と! なんでやねん! 班長が率先しろよ!! 言われた通りに僕と久保田士長が気合いを入れながら駐屯地を1周して部屋に戻りました。 18名と班付2名は汗びっしょりです。 汗をかいてない水野班長が一言二言新隊員を怒鳴って、再び訓練内容を淡々と喋り続けた。 僕だって眠くなったよ。 つまらん座学の後は散歩がてら駐屯地内を二列縦隊で行進しながら案内。 PX(売店)の狭さ小ささに驚くのは毎回恒例。 いろんな施設を案内して回りました。 歩いていれば居眠りする隊員もいない。 むしろ元気なほど! それが18歳の自衛官。 そんな軽い仕事で半日が終わるのが自衛隊。 昼飯もその日からは教育隊御一行様状態で食堂に並びます。 「おーおー!また馬鹿な奴らが全国から来やがったぜ!」と新隊員を睨んで脅す同じ中隊の陸曹。 僕も昨年言われたよなぁ(^-^) 「おーおー!本多みたいな馬鹿に教育されて、テメーらも可愛そうになぁ!」とまで付け加えられた。 僕は班付(班長補佐)であって班長じゃないんだけどなぁ。 飯食う気も失せるわ! 午後からは訓練場で発射機の説明と整地&撤去の一連の動作を説明する事になっています。 三人一組での整地&撤去。 もちろん小林士長と久保田士長と僕が行います。 水野3曹(班長)は何もせず。 この3人で発射機の整地&撤去なんて一度もやった事がありません! 僕は何度も練習をしたかったけど、階級が一番下なので二人に命令するどころか頼む事すらできない状態だった。 もの凄く不安だった。 でも僕が配った発射機の整地&撤去要領のマニュアルで勉強してくれていれば問題ない!という安心感もありました。 僕達がしどろもどろでは新隊員の前で恥をかくこと必至! この日の昼飯は同じ中隊の陸曹に挑発されたのもあるけど、数時間後に新隊員に見せる学芸会の事で食欲がなかった。 そしてその心配は現実となり… 教育隊の存在が危ぶまれる事態にまで発展する。 by606 |