83 新隊員教育隊を受け持つ 準備編 |
「本多。 一年後輩となる新隊員の教育隊で班付としてやってくれんか?」 今年も18人(2班制)。 1班9名を班長一人・班付一人で面倒をみる体制。 もちろん教育隊なので教育隊隊長として3尉以上の幹部を筆頭に数名の陸曹がつく。 水畑3尉を教育隊隊長として、水野3曹と本部管理中隊の小林士長を班長として、久保田士長と一緒に班付として任命された。 水畑3尉は防衛大学を出て間もない童顔の隊員。 個人的には苦手なタイプだったけど、それほど絡みはなかったので気にも留めなかった。 水野3曹はチャキチャキと任務をこなすタイプの女たらし。 僕的には無味無臭の存在。 小林士長は本部管理中隊という演習とか訓練には慣れていないデスクワークを主としていたので心配でした。 久保田士長は遊び人。 ディスコが好きで仕事も中途半端。 それに僕。 自衛隊に入って丸1年! しかも階級だって、ついこの前まで2等陸士だったのに…。 大丈夫かぁ? 「本多は水野3曹の下で1班の面倒をみてもらう。」と訓練幹部から言われた。 まぁ、水野3曹の下なら問題ないか♪ 小林士長だったら何だか後々大変そうだしなぁ♪ 前期と後期教育隊で班付の仕事は見てきたから問題ない。 準備とか片付けをして、半長靴も新隊員に磨かせれるような楽な仕事。 なんにも考えずに班長に言われる事だけしていれば日が暮れる。 これが自衛隊。 新隊員を受け入れるまでには、いろいろ準備がありました。 ベッドや名札を作ったり、居室の掃除。 そして一番大変だったのが発射機の整地撤去のマニュアル作りでした。 なにせ中隊に入ったら新隊員時代に覚えた整地撤去のマニュアルなんて必要なく… いい加減な順番で整地したり撤去して演習をやってきた。 僕でさえ殆ど覚えていない状態なのに、僕よりも古い水野3曹以下が覚えているワケがない。 「発射機の整地の順番、あんまり覚えてねぇなぁ。」と皆で悩む。 とりあえずマニュアル本とビデオテープは保管されていたので、4人でビデオを観て復習する。 ビデオを観るだけで一日が終わろうとしているのも自衛隊。 「久保田と本多で話し合って整地と撤去の手順をまとめておけ!」と水野3曹。 「俺、分からんから本多やっといて!」と久保田士長。 こいつら完全に教育隊をナメてないか?? 僕だけが発射機の整地と撤去を覚えても、教えるのは水野3曹と小林士長だろ!! 怒りと共に先行きが危ぶまれた。 だけど「やれ!」と言われた事はやらないとイケナイのも自衛隊。 二日時間を貰って、記憶の糸を辿りながら発射機の整地と撤去の手順、それと基本動作、かけ声、動く順番を1冊の本に仕上げました。 「一度僕達で発射機の整地と撤去をやってみましょう!」と偉そうに僕が意見具申。 なんとなく渋々賛同してくれて、訓練場で発射機の整地撤去を行ってみました。 整列して班長に「整地始めます!」と報告する一番最初のところから始めました。 しかし3人とも無気力。 「なんで今さらこんな面倒な事やらないかんの?」という雰囲気。 終いには水野3曹が「本多が作ってくれた本で覚えるから、まぁいいや♪」と… 訓練を終了させてしまった。 本当にこれで大丈夫なのだろうか? 班長が言ってる事が都度チグハグだったら新隊員が迷うし、気力を失う。 ましてや2班あるから、どちらの班も同じようにしなければ検閲で最悪の結果を受ける事になってしまう。 その結果を新隊員は後々まで引きずらなければいけないし… 僕達教官だって『ダメ教官』『ダメ教育隊』というレッテルを貼られてしまいかねない。 教育隊長の水畑3尉に「教官がもっと真剣にならないと新隊員を教育できませんよ。」と意見具申したら、「そんな事は水野3曹に言ってくれやぁ!」と…。 教育隊って今までそんなものだったのかぁ? 僕の時は前期も後期もキビキビビシビシしていたぞ! こりゃ本当にヤバイ! 大丈夫だと思っていた水野3曹がこんな状態では小林士長も久保田士長もヤル気になんてならない。 怒りたかったけど全員僕より階級が上だし。 ダラダラと受け入れ準備は整えられた。 なによりも大事な訓練内容だけは僕が作ったマニュアルに目を通すだけで受け入れ準備は終わった。 明日から二日間かけて各地から新隊員が駐屯地にやって来る。 最初は一年後輩の奴らと楽しく訓練ができる♪と楽しみにしていたけど… 今は不安でいっぱいだ。 教官同士の話し合いは全然ない。 どういう感じでやっていけばいいのか全然わからない。 どうせ僕は一番下の階級だから、教育隊隊長以下にはナメられて、新隊員も僕をナメてかかってくるだろう。 特別体力があるワケでもないし…。 一年後輩となる新隊員… どんな奴らなのか? 明日からやって来る。 by606 |