79 初めての中隊慰安旅行 其の弐
 宴会が始まって、飲んでも飲んでも飲めば飲むほどコンパニオンさんがビールを注いでくれる。  今思えばお世辞か景気づけにしか思えない言葉、『お若いのにお強いのですね♪』と…。  ビールは好きだったけど、けして強いほうじゃなかった18歳。  そう言われると無理して飲んでしまうA型の男の悲しい定め。


 20人前後いたコンパニオンさんの年齢は20歳から40歳ぐらいです。  酔ってない時は年齢によって雰囲気というものが違って感じとれた。  しかし酔っ払ってくると年齢が全然分からなくなるから不思議。


 そして大きな船が数人の男性によって宴会場のど真ん中に運ばれてきました。
座った姿勢では確認できなかったのですが、立ち上がって見ると女性の上にお刺身がズラリと並べられているではありませんか!  しかも女性は全裸!  いわゆる女体盛りってヤツですね。  独身中年隊員は競い合うように刺身を食べに行きました。  中隊長も張り切ってたなぁ。  こういう乱れた状態では幹部連中ほど壊れる事が分かった。

 僕は「この女性…どんな神経してるんだろう?」と驚いた。  船の周りはスッゲー人だかり!  僕も見に行こうと思ったけど、何故か体が動かない。  立ち上がれない。  完璧に酔ったみたいでフラフラして立ち上がれなかった。


 意地でも見に行こうと匍匐前進を試みたけど…  敵地(女体盛り)に辿り着く前に船は出港して(下げられて)しまった。  本多二士戦死。


 自分の席だか誰の席だか分からない場所で数人のコンパニオンさんに酒責めを喰らった。  半端じゃない飲まされ方!  宴会開始30分たらずで爆発的な盛り上がりだった事は覚えている。
 舞台の上では全裸の中年男性とコンパニオンさんが踊っているし…  マザコン隊員はコンパニオンさんの膝枕で甘えている。


 このままでは生きて帰れないと思ったので、宴会場の片隅で怯えていたらカラオケ(当時は8トラ)を歌わされた。  歌える曲は『上を向いて歩こう』しか無かったので、脱線しまくりでもなんとか最後まで歌った。
 ところがコレが年配隊員とコンパニオンさんに馬鹿ウケ!!  皆が注目して一緒に歌ってくれた。  どうして皆がこんなにも盛り上がっているのかは歌い終わって席に帰る途中で明らかになった。


 僕…  いつの間にか浴衣の紐しか身に着けてないし… (@。@);


 慌てて座布団で前を隠すしか術は無く…  浴衣もトランクスも何処にもない。  暫くの間、大宴会場を僕がジャックしている状態。  突然座布団を引っ張られたり、倒されたする。  騒げば騒ぐほど酔いが回って、遂に全裸で意識不明。


 意識が戻ったのは深夜の事でした。  体中が痛い。  それに部屋中ゲロだらけ!  自分のゲロか他人のゲロかは判断不能。  みんな同じようなモノを食べたから同じようなゲロだったもん。


 野戦病院さながらの部屋を出たら未だコンパニオンさんがウロウロしている。  「大丈夫ですか?」と水を持って来てくれたのを覚えています。  喉が渇いて声も出なかったので、飲んだ水の美味しかった事も凄く覚えています。  少しずつ頭が回るようになって、コンパニオンさんが部屋に連れて行かれるまでの事を教えてくれました。


 どうやらもの凄くストレスが溜まっていたみたいで、大声出して怒っていたそうです。  完璧に虎と化していたそうです。  階段から落ちたり、野次馬に殴られたり蹴られたりしていたみたい。  それを聞いたらスッゲー悔しくて誰が殴ったり蹴ったりしたのか聞きたかったぐらいでした。


 暫く喋ってコンパニオンさんは僕に一言残して帰って行きました。  『警察官と自衛官の宴会は最低!』って…。  『でも素直に楽しいから最高!』と…。
僕は笑ってうなずきました。  コンパニオンさんにしてみたら良かったのか悪かったのかは分からないけど、僕にとっては最低でしたわ。
 頭痛いし気持ち悪いから、仕方なくゲロまみれの臭い部屋で寝ました。


 翌朝は起きて歯を磨く時間もなく出発でした。  初めての二日酔い。  体の全機能が停止したままです。
ホテルの玄関では朝早くから宿泊客の為に土産屋さんがいっぱい並んでいました。  その中に酔った僕に水を運んでくれたコンパニオンさんが居た。  驚きました。  朝から深夜までこの女性は働いているのだろうか??
 一方では国民の税金で平日に旅行して、深夜まで遊んで翌日も一日遊んでる公務員。  僕は目を合わせられずに恥ずかしくなって下を見ながら女性の前を通過しました。
 なにやってるんだろう?僕。


 ホテルから出発した観光バスの中は酒の臭いが充満してます。  その臭いだけでも酔いそうなほど!  中年隊員はすぐに缶ビールを飲む。  昨夜浴びるほど飲んだやろ!とツッコミ入れたくなるほどです。
 僕は二日酔いで静かに寝て過ごしました。


 夕方前に観光バスは駐屯地に戻りました。  その頃には元気になっていた18歳。  腹も減ったので食堂で普通に晩飯を食べて風呂に入りました。
 

 数日後…  中隊旅行の写真が回覧された。  皆の乱れた全裸写真の中に僕の全裸写真もあって驚きました。  もちろん抜き取って捨てたけど…普通はプリントしねぇーだろうが!
 さらに驚いた事に、中隊の電話にコンパニオンさんからの電話が相次いだ。  話によると駐屯地の電話番号とか中隊名を僕が皆に教えていたらしい。  この事件のおかげで僕はまた1ヶ月の外出禁止令を喰らった。
 
 それ以降、酒は飲まないと誓った僕です。
by606