78 初めての中隊慰安旅行 其の壱
 どこの職場でもたぶんあるだろう慰安旅行。  自衛隊も中隊ごとに毎年慰安旅行は行われ続けていました。  もちろん今でも続けられているはず。  小学校や中学、そして高校時代の修学旅行気分で参加した中隊慰安旅行…  知らぬが仏だった初めての中隊慰安旅行でした。


 何処に行くかは基本的に年配隊員達の声だけで決まります。  『温泉で一泊』が当たり前。  飲んで騒げればOKなノリです。  観光なんて二の次!


 実際、自衛隊に居た4年間で4回慰安旅行に行ったけど…  兼六園とか自殺の名所である東尋坊、淡路島、そして一番記憶に残っているのが小牧のお菓子の城。  それぐらいしか記憶にない。


 朝早く駐屯地の隊舎横に観光バスが1台やってきました。  普通の観光バスではなく、当時としては珍しいサロンバス!  1階がバーみたいになっていて飲める空間。  2階が普通の座席。  ちょっとアレンジされたバスもありました。


 学生時代はバスの座席を決めるだけで1時間を費やせるほどドキドキ楽しかったものですが、慰安旅行なんて隣の席は誰でも良かったです。  タバコを吸わない人なら誰でもOKでしたね。  どうせ移動中はウォークマンを聴きながら寝たフリして時間を潰すだけでしたから。  強いて言えば江藤が隣じゃなければOK♪  もちろん江藤が隣に座った慰安旅行はありませんでした。


 駐屯地を出発すると缶ビールやら酎ハイやらがバスの中を飛び回ります。  今ほどビールや酎ハイが好きではなかった時代だったので、飲んで酔うよりも好きな音楽を聴きながら体を休める事のほうが何倍も嬉しかった。
 だいたい平日の朝早くから酒が飲めるのが不思議だったし…  平日だからもちろん給料貰えて慰安旅行ができるのですよ!  酒飲んで酔っ払っていても給料が貰えるのは国家公務員@自衛隊ぐらいですね。


 目的地までの移動は高速道路がメインです。  年配隊員はトイレが近いにもかかわらず、調子こいて飲み続けるからPAやSAがある度にトイレ休憩です。  一般道でも所構わず観光バスを路上駐車させて、バスの陰で立ちション!  めちゃくちゃです。


 一応は『慰安旅行』なのでバスガイドさんも同乗します。
 綺麗なお姉さんor年配の女性のどちらかでした。  一度だけ綺麗なお姉さんが二人同乗した年もありましたよ。  その時は中年隊員がお姉さんのオシリを触って訴えられる勢いで旅行気分が台無しになった事もありました。
 若いお姉さんよりも年配の女性の方が、こういう人間達の扱い方が上手い!  手のひらの上でコロコロ弄ばれて、中年隊員には馬鹿ウケでしたね♪  そんなやりとりを見ている僕達も楽しかった。


 一日目は駐屯地から観光地まで行って、夕方前にはホテルに到着です。  部屋は6人ぐらいで一部屋。  だいたい同じ年齢で割り振られました。
 荷物を置いたら、とりあえず風呂です。  部屋に置いてあった安っぽい浴衣とタオルを持ってワイワイ騒ぎながらエレベーターで移動。  もの心がついて初めての温泉!  そりゃあ優雅でしたわ♪  一度だけ混浴ってのもありました。  「これだけ男が入っていたら女性が入ってくるワケねーよな!」と笑っていたら…  入ってくるもんですね〜!  若い女性が二人…。  僕は返って恥ずかしくなりましたよ。  女性は堂々としたものでした。  もちろんタオルで隠してましたが…  目の悪い僕はタオルの白しか判断できなかった。  でもそんな光景すらも興奮する18歳。


 風呂から上がってサッパリしたら浴衣に着替えて大宴会場に入ります。  こんな巨大な宴会も生まれて初めて!  温泉入って浴衣着て宴会だなんてトリプル初体験♪  「いや〜ぁイイ旅行だなぁ♪」と御満悦。


 中隊総勢50名ほどが全員着席した眺めはなんともムサ苦しい景色でした。  ところで派手な衣装を着た女性が突然20人ほど流れ込んできました。  男臭い宴会場が一気にピンク色に変わった。  これぞピンクコンパニオン!  そして笑顔で僕たちの前に正座したから驚きました。  だらしなく浴衣を着て、あぐらをかいて座っていたけどキチンと着直して正座したのは言うまでもありません。
 

 「中隊検閲(演習)も終わって、いろいろご苦労さん! 今日は階級に関係なくハメを外して飲んでくれ!」と、中隊長の挨拶が済んで拍手をしているうちにコンパニオンさんがビールの栓を片っ端から抜いて、片っ端からコップにお酌。  こんなのも生まれて初めて。  目のやり場に困りながらもお酌を受けて、幹事さんの号令で乾杯。


 生まれて初めての事ばかりで有頂天♪  大人の世界に興奮♪  自衛隊を辞めないで良かったと思えた瞬間♪


 そしてこの後、驚きの料理が大宴会場のド真ん中に登場する。  嗚呼…  ここから本多二士は暴走機関車と化すのであった。
by606