74 弾薬庫の警衛
 正門と訓練場の警衛の他に弾薬庫の警衛があります。
 
 どこの駐屯地にも弾薬庫はありますが、ほとんどの弾薬庫は昔ながらの小さな山の形をしている。  普通の鉄筋コンクリートで造られた四角い建物を土砂で覆ったもの。  山の表面は綺麗に芝生で固められています。
 万が一、爆発しても頑丈に覆った土砂が爆発の規模を小さくする役目があるのでしょう。  逆に真夏の暑さで爆発を防ぐ役目もあるのかな?
 夏場に弾薬庫に入ると冷房が効き過ぎているぐらい涼しかったです。

 中に置いてある弾薬のほとんどが64式自動小銃のNATO弾(7.62mm)です。  あと機関銃の弾。  他には中隊長クラスが所持する9mm拳銃の弾など。  手榴弾とかも置いてあるのかな?


 青野ヶ原駐屯地の弾薬庫は山の形ではなくて半端じゃない大きさの台形です。  複数の台形に囲まれた中央で地対空ミサイルを組み立てたり分解したりするので、これも万が一に備えて爆発しても周囲に飛び散らない仕組み。


 大きな弾薬庫の中には長細いコンテナにホークミサイルの実弾が格納されて山積みされています。  だから半端じゃない大きさの弾薬庫。  映画などで出てくる悪の秘密組織が核ミサイルを製造したり隠し持っていたりする建物の内部みたい。  歩く音もカツーン!カツーン!と反響する。  閉じ込められたら絶対中からは出られないし、たぶん携帯電話も圏外になる金庫みたいな所です。


 弾薬庫の警衛に就いたのは数えるぐらい。  ほとんどが陸曹クラス以上か、陸士でも陸士長か陸曹候補生です。  自衛隊でもベテランクラスじゃなければ弾薬庫の警衛には就けません。


 そんな滅多に就けない弾薬庫の警衛…  記憶にあるのは1度だけ。
 それはそれは暢気な一日だった。
 だって普通誰も来ないんだもん!  64式自動小銃の射撃訓練やミサイルの分解組み立て訓練があれば数人の出入りはあるだろうけど…  通常訓練なら誰も来ません。  駐屯地からスッゲー遠いから遊びに来るような自衛隊マニアもいません。(いないと思う)  
 正門や訓練場みたいに出入りする隊員に馬鹿の一つ覚えみたいに敬礼する必要もなく、弾薬庫の入り口の外をボケ〜っと眺めているだけの一日。


 2時間おきに64式自動小銃を担いで弾薬庫に登って「頑張ってます!」みたいな素振りで公道を走る車を眺めたり、田舎の美味しい空気を満喫しながら、あっちフラフラこっちフラフラ。  なにが起きても良いように昼間から実弾が3発入った弾倉をポケットに入れて気分のまま歩きます。
 なにが起きても実弾撃てるわけないし!  それなら空砲を持っているほうが気楽だよ。  何が起きても撃てるし!


 御飯は正門の警衛がジープか小型装甲車で運んで来てくれます。  だって食堂まで歩いて行ったら往復で30分以上かかっちゃうんだもん!  だから昼⇒夜(夜食兼)⇒朝は3回食事を運んで来てくれるワケね。  もちろん食べ終わったらまた片付けに来てくれるから暢気なもんです。


 夜の弾薬庫はさすがに怖いです。  
 テロリストや武器マニアが侵入してくる可能性が一番多いのが弾薬庫だから。  深夜から日の出までは、やっぱり怖かったです。  警衛隊の人数も3人から6人に増えて、夜間は二名で弾薬庫内の柵沿いを歩哨任務に就きます。  二名でどうやってテロリストと戦えって言うの?  まず無理やろ!


 侵入者を知らせるブザーは深夜に何度も鳴り渡りました。  そのほとんどは野良犬や野良猫の仕業。  大の大人が大勢で懐中電灯振り回しながら走って侵入場所に向かいます。  野良犬や野良猫は簡単に柵をすり抜けて来るから厄介だけど…  捕まえようとして捕まる相手でもないので、ブザーが鳴る度に走らなければなりませんでした。  だけど暇だからこんな事でも喜んでやっちゃうのが弾薬庫の警衛。  嗚呼、自衛隊。


 弾薬庫の周りは恐ろしい程真っ暗なプチ樹海。  静かなものです。
自転車のヘッドライトが移動するだけでも目立つのに、車が停まれば直ぐに警戒態勢です。  もっとも夜間にこんな所で車が停まれば始まる行為は決まってますね。  見られてるとも知らずに…。  シャバの人達は自衛隊よりも忙しい夜間訓練がある事を知った弾薬庫の警衛でした。  実弾だろうが空砲だろうが地対空ミサイルだろうが勝手に発射してくれ!
 駐屯地内の自衛官はみんな空砲さ♪  嗚呼、これが自衛隊。
by606