67 初めての演習 其の壱拾四
 辞表の書き方を考えながら第3ポストで歩哨についていました。

 こうも早く辞表を書く事になるだなんて…。  地連のおっちゃんに言われるままに書いた入隊願書。  自分自身の本意とはまったく関係なしに書いた願書だったけど、今度は江藤のおかげで自分自身の本意とは少し違った意味での辞表。
 できれば最初の任期満了(2年)まで務めきりたかった!  中途退職者は『不良自衛官』というレッテルを貼られて、今後の就職活動にスッゲー影響してしまう。  

 ところが僕は自営業。  高校を卒業して直ぐに家業を継いだ事にしておけば違和感ない。  自衛隊に体験入隊したとでも思えば万事OKだ!  その頃から悪知恵だけは誰よりも働いてました。


 今はまだ演習中。  今すぐにでも「辞める!」と告げて、さっさと家に帰りたかった。  チキチキ通信の報告書みたいに、ダラダラと長文を綴って辞表を書くよりも…  『一身上の都合で辞めます。』だけでまとまった。  
 これでもう何も考える事はない。
のんびり時が過ぎればいい♪  なにも考える事がなくなった18歳…  ぼ〜っとエロい事を考えて眠気を防止していました。


 深夜0時。

 突然照明弾が打ち上がった!  月夜で明るかった演習場が、まるでナイター設備が整った野球場みたいに明るくなった。
『ヒュルルルルルルル… ドォーーーーーーン!』と模擬弾が炸裂。
『パンパンパン!』と小銃の空砲も聞こえた。
有線電話がひっきりなしにCPを呼び出す。  「こちら第1ポスト! すぐ近くで破裂音!」  「こちら第5ポスト! 敵ゲリラ数名移動中。 指示を!」

 僕も何か報告したほうがイイのかな?
報告してもしなくても給料は同じだし…  どーせ辞めるし…  面倒だなぁ。  とりあえず報告しておくか!  
 「CP! こちら第3ポスト。 発砲音数発。」  
 「第3ポスト! こちらCP。 どちらの方向から聞こえたか?」
 「え?  どの方向って言われても…  右か左ぐらいしか分からないですよ。 後の方から聞こえましたが…。」
 「第3ポスト! ゲリラかも知れないから注意して警戒せよ!」
 「はぁ?  ええ。  了解しました。」


 まったく面倒くさいなぁ(>。<)  って思っていたら、すぐ近くでパンパンパンと炸裂音が聞こえた。  「げっ! ゲリラ?」  ゲリラだと判断したら空砲を撃てばいいのかな?  何も知らんぞ。  どうしたらイイのか分からんぞ!

 「CP!  ゲリラだったら空砲向けて撃てばいいのですかっ?」
 「誰何(すいか)せよ!」
 「はぁ? 誰何?」  (誰何とは、相手の近くで見えないように待機して、「誰かっ?」とドスの効いた声で尋ねる自衛隊特有の尋問)

 アホちゃうんか??  なんでゲリラに対して「あんた誰?」と声かけねばならんの??
専守防衛も聞いて呆れる!  平和泰国日本国自衛隊万歳だわ。
 ゲリラに誰何したら辺り構わず機関銃掃射だよ(^0^)  でもまぁ「ヤレ!」と言われた以上はやらねば…。


 ゲリラ腕章をした数名の隊員が近づいて来たので、自衛隊マニュアルに従って誰何した。
 (低く小さな声で)「誰かっ?」
 「…。」
 「ん? 誰かっ??」
 「…。」
 なに黙ってんだよ!  「誰かっ!!」 (`◇´)  と…頭にきたのでデカイ声で誰何したら走って逃げて行った。

 「CP…  こちら第3ポストですが、ゲリラに誰何したら逃げて行きました。」
 「こちらCP  第3ポスト…  どちらの方向に逃げた?」
 もう、アッチかコッチしか分からんわ!  どーでもいいわ! 「CPの方に行きました。」といい加減な事を伝えて面倒なゲリラ対処を勝手に終わらせました。


 そしてかなり眠くなった午前2時に歩哨の交代時間がきました。  が!  交代が来ない!
どうやらゲリラ戦の真っ最中で大忙しだったみたい。  「まぁいいや! このまま歩哨の穴の中で仮眠しながら朝を迎えよう♪」と笑顔でのんびりしていたら交代が来た。

 早くテントに帰って寝ようと思っていたのに、誰かと擦れ違うと(もしかしたらゲリラかも知れないから)面倒だったから身を隠しながらテントに向かいました。  上手く誰とも絡まずにテントに到着したら小隊長しか居なかった。  「αクルーの発射機がゲリラに大破されたから、ミサイルをβクルーの発射機に積み替えに皆行ってる。 本多も行け!」と…。


 ええええええっ!!!!!?????  僕らの発射機が大破?????
急いでαクルーの発射機に向かったら、ローダーが来てミサイルを除去してる最中だった。  えらいこっちゃ!!  僕達の発射機が大破しちゃっただなんて…。

 この後すぐ、発射機に駆け寄って驚きの事実を知る。
by606