62 初めての演習 其の九 |
雨に打たれながら寝たのは生まれて初めての体験ではなかろうか?? 『初めての演習』 初体験の連続。 今でこそセブンで非日常的生活を味わっているけど、演習は非日常的な自衛隊生活の中でも更に非日常的な時だった。 偵察機が機関銃に向かって地面擦れ擦れに飛んでくる。 そんな事は航空ショーでもありえない! 虚空ショーだ!! 雨が上がった演習場。 緑と泥のツートンカラーの世界が目の前に広がっていました。 早い夜明けで気温もグングン上がり始めた。 ビショ濡れの下着。 ビショ濡れの下着の上にはフル装備を装着したビショ濡れの戦闘服。 ビショ濡れの戦闘服の上には戦闘合羽。 戦闘合羽の上には夜明け前に装着した擬装材(葉っぱや草)が鬱陶しい。 擬装材が顔にまとわりつく。 早く合羽を脱ぎたい!! 発電機と各レーダーは忙しく回っている。 アンテナ以外は木で隠されている各レーダー。 枝で擬装するのではなくて、木を何本も切り倒してそのまま立てかけている。 自然環境に煩い人達が見たら怒るだろうな。 そんな頃、鉄パチの重さに耐えられなくなっている隊員一名。 言わずと知れた僕だ。 一晩中被り続けていたので鉄パチの中紐が頭に食い込んでる感じ。 痛い(>。<) さらには肩コリも酷くなっていた。 テントの中で休んでいれば鉄パチ脱いで寛げたのに… 今となってはプラスマイナス0の気分。 「各個に朝飯!」と小隊長に言われた。 「また幹部の飯の支度かよ!」とブツブツ言いながら炊事車両まで64式小銃を抱えて鉄パチの痛い部分をズラしながら歩きました。 炊事車両に着くと、どの隊員もさすがに疲れた顔になっていました。 元気なのは幹部だけです。 64式小銃も顔も泥だらけの僕らと違って幹部の顔も戦闘服もキレイなもの! 普段と変わらなかった。 幹部が来るたびに何度も並んで、イスに座っている幹部に朝飯を運ぶ。 のんびりお茶を飲みながら、「おはよう本多2士! 調子はどうだ?」と…。 腹の中では「煩せー馬鹿野郎!」と思いながら、「はい!本多2士! 好調であります!」と笑顔で返事をする。 例の如く幹部が使った山積みされた飯ごうや箸を江藤と2人で片付けます。 そのうちに江藤がβクルーの班長に呼び出されたので、残った洗い物を僕が片付けていたら… 「これも洗っとけ!」と次々に陸曹クラスが目の前に置いて去って行きました。 「はぁ? 幹部だけじゃないの??」とは言えず… 「はい。 分かりました。」としか言えない新兵。 この時に横着な陸曹の氏名&階級そして顔を覚えました。 重い鉄パチが更に激しく頭に食い込みます。 中腰の姿勢で洗い続けているから肩コリに拍車がかかります。 なんとなく悔しくて涙が出てきたけど、演習中に泣いたら以後笑い者になる事必至。 苦しさとストレスが同時に蓄積されている自分が分かりました。 右肩に背負い続けている64式小銃のおかげで既に右肩のコリは合羽の上から触っただけでも分かるほどになっていました。 さらに背中に64式小銃が当たる部分は擦り切れているのも分かりました。 ちょうど靴ヅレみたいな症状。 動けば動くほど痛い。 ヘロヘロになりながら射撃小隊のテントに戻ったら、「何処におったんだボケ!」と小隊長に怒鳴られた。 「ずっと炊事車両の脇で飯ごう洗っていました。」と正直に答えたら… 「江藤はとっくに帰って来とるぞ! 何やっとんじゃ馬鹿たれが!」と今にも殴られそうな勢いで怒られた。 あの時もし殴られたら間違いなく殴り返していたと思う。 もの凄く悔しかった! 誰か見て知ってるはずなのに、誰か一人でも「本多は一生懸命やってましたよ。」と言ってくれると思ったのに… 誰一人として援護してくれなかった。 間髪入れずに「戦闘姿勢!」の号令とサイレンが鳴り響いた。 駆け足で発射機まで走って、バリアの如く被せてあったバラキューダを倒して電源を入れる。 「本多は機関銃の支援!」と…ここに至ってまたまた面倒な役を言いつけられた。 なにやったらイイのかわかんねーよっ! 64式小銃の5倍はあるだろう空砲が入った箱を2人で引きずって機関銃まで走る。 もちろん鉄パチ被って64式小銃背負って走る。 「頭が痛いよ!」 「背中が痛いよ!」と鳴き声と悲鳴の連続。 「安全装置取り外しヨーシ!」と武器マニアぽい隊員がニコニコしながら機関銃の安全装置を解除した。 さらにリズミカルに「弾薬半装填ヨーシ!」 「弾薬全装填ヨーシ!」 そして機関銃を8の字に振り回して「銃座ヨーシ!」と叫んでいた。 長い銃身を振り回すから危ないのなんのって…。 とにかく横でウロウロしていただけの僕(^-^) またLR機(偵察機)が飛んでくるのかなぁ♪ 今度は機関銃撃たせてくれるかなぁ♪ さっきまでのストレスを機関銃で解消したかった僕でした。 がっ! 発射機が動いて、ダミーミサイルが発射されて終了。 どうやら敵の戦闘爆撃機とみなした旅客機をミサイルだけで撃ち落す事に成功したみたい。 「戦闘姿勢解除」の号令で再び発射機をバラキューダで上空から発見されないように隠して、重たい機関銃の弾をテントまで運ばされました。 演習の順序が分からないから大変です。 by606 |