61 初めての演習 其の八
 発電機に向かって電気ケーブルを引っ張りながら、ひたすら歩いたのに…  発電機がない!  発電機の動いてる音は聞こえるのに…  真っ暗だし見通し悪いから音しか聞こえない。
 まるで地球上で独りぼっちになった気分。  そのうちに発射機の位置さえ分からなくなってしまった。  ケーブルを辿って戻れば発射機に帰れるけど、ケーブルは真っ黒な上にほとんどが泥と草に隠れていて見えやしない!

 仕方なくケーブルを手で触りながら発射機に戻った。
「班長! 発電機の場所が分かりません!」 この後で諸元ケーブルも引っ張らなければならないのに班長の苛々を買うハメに。


 班長と一緒に発電機まで歩いた。  あった!  しっかりと木の葉でカモフラージュして隠されていた。  
電気ケーブルの先端と発電機までの誤差は50mぐらいあったので、班長と2人でケーブルを引き直して発電機に辿り着けた。
「感電するなよ。」と班長がボソっと言う。
教育隊の頃は感電する恐れがあったので、ケーブルを発電機に接続してから発電機を動かしていた。  発電機が動いている状態でケーブルを接続した事はない!  怖い。  手首ほどある太いケーブル。  接続するコネクターは大人の拳ぐらいある。  感電したら痺れる程度では済まない事ぐらい誰でも分かる。  しかも雨でびしょ濡れ!  感電する要素は整っている。

 グイグイ…  グイグイ…  何本もあるターミナルを折らないように差し込む。
めちゃめちゃ怖かったけど、なんとか繋ぐ事ができた。  暫くは足の震えが止まらなかったのは事実。


 続いて諸元ケーブルを引っ張って繋げた。  こちらは場所が簡単だったし、感電する恐れはなかったので気楽だった。


 班長達が各レーダーとの同通点検をやっている最中に、僕は発射機を固定する板を脚元に打ち込まなくてはなりません。  とにかく重労働は全て任されます。  10ポンドハンマーを振り下ろして9枚の板を発射機の脚に打ち込んだ。  もうヘロヘロ。


 動いている時はスッゲー暑くて…  一旦落ち着くと一気に寒くなる初秋。  しかも雨。  体温を奪われ続ける。


 「よし。 テントで小休止しよう!」
班長の一言が神様の声に聞こえた。

 3人でテントまで歩いて進んだ。  何を喋りながら歩いたかは覚えていないけど…  一仕事済ませた僕らには笑顔があった。
やっと座れる。  やっと鉄パチ外して休める。  少しでも横になれるかな?  いろいろな小休止の方法を妄想しながら楽しくテントに向かった。


 テントも草木で擬装(カモフラージュ)されていた。  テントの前には64式自動小銃が何丁も整頓して置いてある。  「おいおい盗まれちゃうぞ!」と…今なら思える無用心さ。
 中に入って驚いた。  (>。<)狭い!!  これぞ豚小屋!!  一旦入ったら出るのに一苦労なのは一目瞭然。  中で座っている隊員の戦闘服&戦闘合羽からは蒸気が出ている。
 無理。  とても寛げるスペースはない。  既に体中を擬装している隊員も居たからひとたまりも無かった。

 「早く入れ!」と言われたけど…  僕は外で雨に打たれていたほうが休まると思ったので、「狭いから外でイイです。」と返事して小銃抱えて腰掛けて過ごしました。  


 『自分はなんでこんな所で雨に打たれているのだろうか?』
そんな事から今まで生きてきた人生を振り返った。  他に考える事はなかったし…。
 もっと勉強していれば、今頃は大学生だったのかな?
 高校を卒業して直ぐに家の仕事を継いでいれば良かったのかな?
 カッコつけて高射特科部隊じゃなくて別に大砲(特科)でも良かったのかな?
 いや! あのままケンタッキーフライドチキンに入社するのが最善だったはず!  そうすれば女の子もいっぱい居たし…  店の中だから雨なんて関係なかった。
そっか! ケンタッキーフライドチキンのバイトを辞めたのが間違いだったんだ!!
…などといろいろ後悔しながら休んだ。
 
 大嫌いな鉄パチも雨の中なら鉄の傘だ。  顔や体が濡れるのは平気だけど、頭が濡れたら寒さ倍増だから鉄パチ被ったまま休んだ。

 雨に打たれながら64式小銃を抱えたまま寝てしまった。  寒さも疲れも麻痺していた。  Tシャツもパンツも脱水せずに洗濯機から出した時の状態。  それでも眠れた。


 葉っぱだらけの軍人さんが薄ら明るい霧の中を小銃構えて何人も歩いている。  敵兵だ。  見つかったら撃たれる。  僕の弾倉には空砲しか入っていない。  戦えない。  どうしよう!  銃剣で戦う?  逃げる?  降伏する?  捕まったら捕虜にされるのでは…

 ガツン!と鉄パチの上から小隊長に頭を叩かれて目が覚めた。  夢と現実の真ん中に居た僕。
「いつまで寝とんねん! 夜明けまでに体を擬装せー!」

 慌てて体中に葉っぱのついた枝を装着する。  擬装は結構好きだし得意だったりする。
演習場で朝を迎えるのは人生で初だった。  雨も上がっているし、演習場に地形や現在地が分かるほど明るくなってきていた。  

 皆で発射機やレーダーも擬装した。  スッゲー楽しかったです。  寝たから少しだけ疲れも抜けたし…  何よりも明るくて歩きやすいのが嬉しい。

 それにしても腹減ったなぁ(@。@)
by606