57 初めての演習 其の四
 なんでも『初めて』というのは新鮮且つ楽しいもので…  僅かだけど『右』の血が流れている僕は「状況下に入れ!」と言われるよりも先に戦争気分でした。  本当の戦争を知らないから戦争気分になっていられるのでしょうね。  弾を撃ってくる敵はいない。  気分だけの戦争。  それが演習なのだろうか?


 皆が同じ戦闘服を着て、同じ装備を身につける。  実際はいつ起こるか分からない殺し合いの練習なんだろうけど…  それが今の仕事。  

 国防  愛国  そりゃあ日本人だから少しは胸に想う事だってある。  だからと言って本当に戦争が起きたら自分が生き残るのに精一杯になるのではないだろうか?  それとも…何も抵抗できなくて死ぬよりも家族や愛する人の為に戦って死ねれば幸せだと思えるのだろうか?  どちらにせよ怖いです。


 高校時代は古い戦争映画や本を読んでいたので、映画の主人公が小銃を背負って歩く時の姿をマネして歩いたり…  鉄パチの被り方を深く斜めに被ったりして映画の主人公になった気分を楽しむのが関の山。
 守るべき『愛する人』なんて存在しなかった18歳。  もしも僕がこうして戦争に行ったらどう思うか?  いろんな事を考えているうちに、青野ヶ原駐屯地の訓練場は戦場を化していくのでした。


 「上空爆音!」  

 発射機の前の小屋でヘッドセット(通信機)をしていた射撃小隊長が大声を出した。  僕は「はぁ?」という感じでボケ〜っとしていたら全員が一斉に小屋の回りに散った。  僕も見よう見真似で班長と一緒に走った。

 「本多! 散れっ! 半径5メートル離れろ!」
そう言われても何処でどうすればイイのか分からない。  そうこうしているうちに「敵機距離10km!」と小隊長が大声で言う。
 ワケ分からなかったけどスッゲー緊張感。  近くに置いてあった機関銃には顔見知りの隊員3人がベルト状になっている弾(空砲)を装填している。

 耳を澄ませば確かに上空で爆音がする。  よーく見ると飛行機が飛んでいる。  もっとよーく見ると旅客機!  あ… あれが敵機??  そのうちにダミーのミサイルが積んである発射機が上空の旅客機の方向に向いた。  そして発射を表すランプが点灯。  

 「はぁ?」  「今ミサイル撃ったの?」

 正直気が抜けた。  僕達の戦争に小銃は必要ないのでは?  機関銃だって全く活躍しなかったよ!  こんなに楽でイイの??  敵機は落ちたの???  もう終わり????


 そうこうしていたら先ほどよりも大きな爆音が聞こえてきた。  族車が訓練場の前の道を走ってると思ったら突然機関銃が火を噴いた。  しかも僕の方に向かって空砲を発射したので2倍も3倍も驚きました。  真っ黒の飛行機が低空で訓練場を通過した。  機関銃は空砲を撃ちながら飛行機を追撃。  カッチョイイ!!  
 一瞬だったので何が起きたのか分からなかった。


 そのうちに小隊長が僕に駆け寄って来て、空砲が入った弾倉と薬莢が飛び散らないカバーを手渡してこう言った。
「今度、LR機(偵察機)が飛んできたら撃て!」と…。

 滅相もねーぞ!  そんな殺生な!

 小隊長の命令に背く事なんてできず… 空砲の詰まった弾倉を64式小銃にセット。  薬莢カバーを小銃の右横に取り付けた。  再び真っ黒のLR機が飛んできた。  Uターンして飛んで来たのは誰でも分かる。
 木々の間から黒い機体が見えたと同時に機関銃が再び火をふ…  火を噴かない!  弾が詰まったみたい。  大慌てでガシャガシャやっている。  

 「本多ーっ! 早ょう撃てーぃ!」と周りの隊員に言われるまで撃ち方不可能な機関銃が面白くて見入ってしまっていた。  
向かって来るLR機に僕の64式小銃が火を噴きました(^0^)  まるで戦争。  これが戦争映画なら敵機が通過した途端に絨緞爆撃かナパーム弾が落ちて全滅というパターンだけど…  攻撃のみの演習なんだなぁ♪


 空砲20発を撃ち尽くして銃口を上に向け、一言… 「か・い・か・ん」(快感@セーラー服と機関銃)のマネをしたのは昭和末期のお約束。
by606