入隊式までの事 其の壱
 1986年4月1日 桜も咲き始める頃…
 ついに陸上自衛隊に入隊です。 豊川駐屯地の教育隊で3ヶ月間、基本教育前期課程を学びます。
 まずは受付で名前を言うと、「本多君は2区隊2班です」と言われた。 高校の親友は違う区隊になってしまったのが残念だった。 でもまぁ建物は同じだから暇みて一緒に遊べばいいと思いました。

 3区隊で各区隊3班まであります。 1班が12名程度。 約100人ぐらいが集結してます。 その殆どが高校を卒業して入ってきた者でして… このような新兵さんの教育は1年に3回ぐらいあるそうです。 その中でもこの時期の入隊者は一番多いそうです。 その他の2回の教育期間に入隊する人は、高校中退者や無職の人などで、年齢層も幅が広いのが特徴。 結構ヤバそうな人が多いのも特徴。

 一通り受付けが終わると、各区隊・各班に分かれて班長の自己紹介から始まりました。
「2区隊2班の班長を受け持つ小山三曹です!」 そして班長を補佐する… 「班付の外野士長です!」 という自己紹介。 なんや意味が分からんかったけど… 班長はデカイしゴツイし…でも凄く優しい笑顔。 班付はどう見ても元ヤンキーで、口よりも先に手がでそうな人でした。 まぁ、どちらも女性にはモテるタイプだと思った。

 自分らの自己紹介は後回しで、班長・班付に連れられて、まずは装備品・日用品の支給から始まります。
最初にスッゲー大きなサンドバックみたいな袋を手渡されました。 広げれば身長ほどの大きさです。 腰から下を袋の中に入れて「ミノムシ〜♪」と陽気な事やってる隊員はドン引きでした。 ちなみに僕ではありませんからね!

 一番最初に与えられたのが『半長靴(はんちょうか)』という名の安全靴。 カッコ良く言えばミリタリーブーツですね! 高校3年間は地下足袋だったのに… やっと地下足袋を卒業できたかと思ったら、今度は安全靴かよ。 
 この時のヤリトリは今でもハッキリ覚えています。 運動靴を買いに行った時に「洗うと縮むからね」と店員に言われて買ったサイズが26.5cmでした。 普段は25.0cmなのに…   「靴のサイズは?」と半長靴のサイズを聞かれた時、「26.5cmです」と返答。 26.5cmの半長靴を2つサンドバックの中に入れられました。 試着などと言う面倒な事は一切無しです。

 そこから先は自衛隊色のプラスチックのヘルメット・鉄のヘルメット・飯ごう・水筒・帽子・スコップ・テント用具一式… どんどん詰め込まれていきます。 みるみるサンドバックが出来上がり… 持ち上げるのも不可能なぐらい詰め込まれました。 グズグズしてたら怒声が飛ぶ勢い。 体が小さかったり、痩せてる隊員は大変です。 非力な隊員は既に他の隊員の足を引っ張る事態が起きている。 一通りの装備品を受け取ると班長から「いいか! 今受け取った装備品は官品と言って国から君達に貸し出された物。 どんな小さな物でも1つでも紛失したら全員で出てくるまで探させるからキチンと管理するように!」とキツク言われた。

 「では君達が寝泊りする部屋に案内するから荷物を持って!」と… 連れて行かれたのは旧陸軍の面影が残る建物。 夜な夜な想像していた通りの建物の中だった。 
 案内されたのは2階の部屋で、なんと18人部屋! 2段ベットが9個とシングルベットが1個。 このシングルベットは班付が寝る事になっている。 

 まさか3ヶ月間も男ばっかり19人で寝泊りするのか? しかも僕のベットは上段。 さらに入り口に一番近い。 寝てる時に扉をバタバタされたら目が覚めちゃうよ! 貧弱なベットだから揺れるし… 登ったり降りたりも面倒。 しかもイスがないから座れない。 
 下のベットの隊員が挨拶してきました。 凄く貧弱で、メガネをかけたガリ勉タイプ。 「良かった〜♪ 危ない奴じゃなくて♪」と思いながら笑顔で挨拶しました。 しかし… 本当に危ない隊員というのは、こんなタイプだと言う事を月日が経つにつれて学習するのだった。

 ベットの上には新品の戦闘服(いわゆる作業服)が上下2着。 新品の制服が数種類、山のように置いてありました。 階級章と名札もたくさん置いてあった。  「うわぁ〜自衛隊やん!」 と僕はちょこっと楽しい気分になりました。
「とりあえず全員ジャージに着替えるように!」 「ジャージに着替えたら食堂に行きます」と班長から言われた。
 ベットの上には青いジャージ上下が置いてありました。 なぜか新品ではなく中古。 毛玉もあってイマイチ穿きたくない感じでした。 この青いジャージは新隊員の証。 新隊員以外は自分好みのジャージを穿いて生活できるのです。

 とりあえず2区隊2班の12人と班長・班付で食堂まで移動します。 習ってもいない一列縦隊での行進。 帽子・作業服と青いジャージを着こなせない我々&てんでバラバラの足並みは、ある意味で笑い者。 
 「おうおう馬鹿が集まってきたよ!」という声が聞こえた。 確かに馬鹿だ。 右も左も分からない『どん底』の階級。 見渡す限り知らない奴ばっかり。 飯の食べ方はおろか… 何処でどう飯にありつけるのかを今から習うほどの人間。 

 『毎日が物語』的な生活の第一歩。 それが食堂でした。

by606