37 訓練非常呼集
 前期教育で一番ツライお叱りが2時間の正座だった。
悪夢は甦るものでして… 後期教育でも酷いお叱りを受けました。


 それは教育隊のみに発令された『訓練非常呼集』という初めて耳にする訓練だった。
この訓練は集合・整列・点呼を突然かけられても各隊員が迅速且つ機敏に対処できるかどうかを見極めるものでした。


 前日…  整地撤去の訓練で、訓練場の行き帰りに必要以上に『回れ進め!』をかけられた。  訓練場の往復だけでも泣けるぐらい辛かったのに、課業終了間際まで必要以上に体力練成運動を強いられた僕らは、早く消灯ラッパを聞きたいまま眠りにつきました。


 訓練非常呼集はまるで夢の中。  夢の中で誰かが僕を起こす。  次第に現実に戻り始め…誰かが騒いでる事に怒りを覚えながら目を開けると班長と班付が怖い顔をして新隊員を起こしてる。

 僕は何が起きてるのかさっぱり分からなかった。
腕時計を寝ぼけた眼で確認すると午前4時。  薄ら明るいが起床まで2時間もある。  時計が壊れてるワケでもない。  現実に何かが起きている。


 「さっさと起きて着替えて朝礼場所に集合だ!」 と班長が低く静かな声で命令する。
「はぁ? 集合?」と誰もがボソボソと呟く。  血の気の多い隊員は「なんでこんな時間に起きなあかんのや!」 「おう!皆起きんでええでぇ!」と息巻いてる。

 しかしここは自衛隊。 今はどうか知らないけど、その頃はバリバリの縦社会。

 皆は渋々起きて戦闘服に着替え始めました。  僕も戦闘服に着替え始めたけど、ムカついてる隊員はスッゲー怖い顔をしてベットでアグラをかいたまま班長と睨み合いを続けてる。
僕はその光景を見て、現在よりもこれからが不安になった。

 「さっさと着替えろって言うとんのや!」  

 「はぁ?今は消灯時間とちゃいますのか?」  

 「俺の命令に逆らうのか? 給料要らんのか? 辞めたいんか?」

 「なんで4時に叩き起こされなイカンのや! アホくさ!」

 そんな気合いの入った押し問答が続いてる中を僕達は着替えて非常階段を下りて集合整列しました。  集合場所には小隊長以下2名が腕組みをして待っていた。  整列しながらやたらと腕時計を見てたのが印象的だった。
キレていた隊員1名は僕達を20分待たせて非常階段をゆっくりと下りてきた。

 「こら!駆け足!」 と言う小隊長の命令も全くの無視。
しかも階段の途中で、「なんでこない早よ起こされなあかんのやーっ!」と号令調整よりも大きな声で騒ぐ始末。  大声は隊舎に木霊する。  そのうちに共感&感銘した隊員数名が整列を外れて座りだした。  


 僕達は意味が全く分からないまま、ただただ並んでいた。
全員集合して座っていた隊員も立ち上がって集合完了。  午前4時に起きて、たった30分の物語だった。


 そう。  僕達には『たった30分の物語』のはずでした。  「ところが」と言うよりも「やっぱり」それだけでは済まなかった。
 小隊長は爆発寸前の真っ赤な顔をして「訓練非常呼集という事での抜き打ちでの集合をかけた。 なんだこの実態は!」と…本当なら大声で怒鳴りたかっただろうに、教育隊の他は皆寝てる時間なので小声でのお叱り。

 「全員点呼まで正座しとけ」

 そう告げるとゆっくりと消えて行った。
 
 
 班長靴(安全靴)での正座… それは素足での正座の何倍、何十倍もキツかった。  まず足首が曲がらない。  足首が圧迫されて5分で痺れてきた。
痛みと眠気で転がる隊員続出。  長い自衛隊の歴史の中で僕だけじゃないかな?  前期教育も後期教育も2時間近く正座させられてるのは!!


 1時間半の正座を強いられて起床ラッパで解放されたけど、小隊長以下の怒りは収まらなかったです。  僕らの怒りも収まらなかったです。
by606