33 後期の教育訓練 其の参

 僕らが後期訓練で扱った発射機の画像です。  整地撤去の訓練ではミサイルを積みません。  国内で発射機に積むミサイルは99%がダミーミサイルです。  中身は空っぽのオブジェです。


 スクワット150回分割払いでこなした足は一晩中笑い続けてました。
もちろん翌朝には竹馬の如く…  起き上がるのも困難。  戦闘服を着るのはもちろん、普通に立つ事すらできなかった。  寝る寸前に150回もスクワットやらされれば誰でも泣くわ!

 点呼も朝礼も僕は出る事ができませんでした。  もちろん訓練場まではケガ人の扱いで、小隊長の漕ぐ自転車の荷台に乗っての移動。  訓練は全くできずに見学。  チーム員2人は不思議な顔してたけど「ラッキ〜♪」ぐらいにしか思ってなかったはず。  見学しつつ訓練場の草抜きを強いられました。  

 わずかではあったけど、他のチームは昨日よりも上達している。  (>。<)参った!  僕らは一日楽ができるとプチ喜んではいたものの、間違いなく他のチームよりも遅れをとる事になる。  緊張・責任感だけでも凄い重圧なのに『焦り』までもが肩と胃に圧し掛かってきた。  何をやっても空回りの僕。  毎日デッドボールを空振りして三振してる感じ。


 一生懸命に見て学べど、昨夜は足が痛くてほとんど寝ていないから眠いばかり。  見学にもならなかった。  見て学ぶ気なんて全くない。  今すぐ草の上で寝たい。  砂利の上でも構わない。  とにかく眠らせてくれ!  早く一日終わってくれ!
 って言うか…スクワットのやり過ぎで翌日仕事を棒に振るなんて自衛隊ぐらいではなかろうか?  


 翌朝には完全復活の18歳!  若さはパワー!
何をするにも苦しかった昨日に比べれば、今朝は無敵みたいな体。  草抜きしながら他チームの様子を完全無欠の他人事感覚で学習していた僕らは、発射機の整地撤去を一通りできるようになりました。

 上手い下手に関係なく…  牽引姿勢だった発射機を、ミサイルを積んで発射できる姿勢にした後で再び牽引姿勢に戻す。  考えてみたら、めちゃめちゃつまらん仕事ですよね!  この訓練を午前中もしくわ午後に2回やったら給料が貰える。  これが自衛隊。
 一通りできるようになったとはいえ、リーダーの指示に従って両側2人が声と動作を合わせなければ見栄えが悪いからダメ! これが自衛隊。  


 結局… 発射機の整地撤去は『スピードと見栄え』が兼ね合わさってないとダメなのです。  だから『学芸会』みたいな訓練なのです。


 4チームの出来はバラバラでした。  誰か頭のイイ奴がいるチームは一通りできるまでになるのが早かったです。  僕は結構アドリブ感覚で、思い出しながら指示をしていたのでスピードは遅かったですね。  頭悪いし!

 一通りできるようになってからの訓練は、基本教練と歯切れのいい大声に拘っての訓練となりました。
僕は声変わりもしたかしてないか分からないくらいで…  大声が苦手でした。  大きな声を出すと、何故か甲高い声になってしまう。  低い声が出ないんです。  これは本当に辛かったですよ。  毎朝の号令調整(大声を出す訓練)で、前に出て一人ずつ大声を出す時は必ず皆に笑われた。  通りすがりの隊員。  朝礼で集合してる各中隊。  大勢の人に笑われ続けたから毎朝胃が痛かったくらい。
 だから訓練中もキンキン声で指示してる状態でした。  慣れてしまえばOKなんだけど… 本当に悲しかったです。


 発射機の整地撤去で動く範囲はせいぜい4m四方。  その間を1歩でも移動するのに両拳を脇に持ってきて駆け足の姿勢をとってから移動する。  振り向けば済むような事でも基本教練通りに回れ右をする。  何を指示されても大声が復唱する。  全く無意味な気もするけど…これが仕事なのです。  
 まぁ、『基本』=『安全』という事なのでしょう。  『安全管理』に関しては口煩いくらい言われ続けました。  故に『基本』が大事だという事。  下手すれば感電・骨折・圧死・腰痛に繋がる発射機。  班長や班付が見てて『危険』だと思う失敗に関しては体力消耗運動を余儀なくされます。  訓練場を走らされたり…  腕立て伏せ。  「シャンシャンせーや!」は一日で何十回も聞かされました。


 自衛隊での梅雨は誰もが初めて。
ただでさえイライラする時期にイライラする毎日。  各隊員のストレスと疲労は日々積もってきてました。  笑顔の無い日々の連続。  前期教育以上に縛られた毎日。  一人ずつ本性を現してきたのは1ヶ月が経った頃からでした。

by606