20 戦闘訓練の検閲 |
演習場での戦闘訓練は正直キツかった。 だって駐屯地内の訓練場の倍くらい長い距離を匍匐前進させられたからね! その分たった1回限りの戦闘訓練で済んだのは、ある意味で集中できた。 でも…たった1回の戦闘訓練で戦闘服は土だらけ! 赤土ばかりの演習場の悲しい定めでしたわ。 もちろん帰ってからの洗濯は超大変です。 洗濯機の中にいっぱい洗剤を入れても泡が立たないばかりか、すすぎ終わっても水は薄く朱色が残ったほどです。 そんなツライ訓練も『検閲』が終わればおさらば♪ その日の朝は全員気合いを入れて戦闘服を着ました。 さらに擬装網(網のチョッキ)を着て、鉄パチ(鉄製のヘルメット)にも網を張ります。 それだけでコンバットの完成! この擬装網にはカモフラージュをする為に草や木を差せる仕組みになっています。 いつもの如く小銃と銃剣を武器庫から出して装甲車に乗り込みます。 わずかばかりの公道を走っている時が唯一の楽しみ。 女子高生とか見ては心の中でニヤニヤしてた。 一番後ろの席は結構奪い合いだったね。 演習場に到着してキレイに整列。 これまで何度も来た演習場だったけど…雰囲気が違った。 区隊付以下は物凄く気合いが入ってる! 「ぎょーつきゃー!(気をつけ!)」 「みーへーならえ"っ!(右へならえ!)」 怖かったから僕らも大きく目を開いて号令に従ってた。 それでも区隊長は指揮棒をチラつかせながらニコニコして僕らの前に現れる。 さらに今にも死にそうな教育隊長もお出まし。 教育隊長の訓示もか細い声で何言ってるか分からない。 終わったのか終わってないのか分からないうちに「ぎょーつきゃー!」と…。 そして班長から戦闘服の上に擬装を命じられた。 わけ分からずに、そこら辺に生えてる草や木を体に差したり…鉄パチに差して人間生け花状態♪ 結構楽しかった! 「体の輪郭が消えるように」「景色に溶け込むように」と教えられながら擬装をしました。 背中の擬装は隊員同士代わりばんこで作り合ったよ。 全員擬装が完了した。 それは初めてにしては完璧な擬装だった。 草むらに隠れたら分からないくらい完璧でした。 今度は顔に色を付けて肌色を消します。 自衛隊専用の化粧道具で黒と緑と黄緑で化粧します。 一人一人鏡を見ながら右手に色をつけて顔を迷彩模様に塗ります。 初めての化粧だったなぁ〜♪ 顔の迷彩は上手い下手が極端に出ました。 それがまた楽しかったです♪ これで戦闘準備完了。 嫌が上でもモチベーションは高くなった事を覚えています。 「ここは演習場ではない! 戦場だ!」 という気持ちになった。 『愛する人を守るため…僕は戦います! 父さん、母さん…今まで育ててくれてありがとう!』と…自然に思えて、自然と涙が出たのには驚いた。 いつのまにか僕は自衛官なんだ。 戦闘訓練の検閲はお金かかってました。 所々で発炎筒が焚かれ… 爆竹(セコっ!)が機関銃の雰囲気を出してた。 大きな声で復唱する声が聞こえてきた。 もう始まってる! 1区隊から既に始まってる! そろそろ僕らの順番も近づいてきた。 班長が「これで最後だ! 全員悔いのないように一番大きな声で復唱・突撃してこい!」と激を入れられた。 2区隊2班12人で円陣を組んで気合いを入れたのも懐かしい。 小さな声で『2区隊2班一歩前へ!』と班長から指示されて12人の半分の6人が小銃を構えて地面に張り付く。 『小隊前へーーーーーっ!』の号令で起き上がって奇声を発しながら突き進む。 敵の銃弾に似せた爆竹で直ぐに地面に張り付いて伏せる。 動きにくい! 葉っぱや木が邪魔で走れないし、伏せる事もままならない。 『2区隊2班第一匍匐前へ!!』の号令で必死で匍匐前進。 この第一匍匐でできるだけ距離をかせぎたい。 後々楽なように第一匍匐から第3匍匐までに距離をかせぎたい。 一生懸命に匍匐前進した。 葉っぱで顔が切れてるのも痛みで分かるけど関係ない。 体に木が刺さってチクチクしてるのも気にしない。 前進するたびに体がボロボロになる。 第五匍匐まで進んだ頃には声は枯れていた。 息も上がっていた。 『2区隊2班…着剣!』の号令で64式自動小銃に銃剣を装着する。 この時は肘を上げたり体を起こしてはならない。 しかし僕の銃剣はどこを手探りしても無かった。 焦った! 右腰に差してた銃剣が無い!! 他の5人は全員着剣を済ませて『準備良し!』の報告をしている。 落としたなんて事になったら、やり直しでは済まされない。 「ヤベーぞ!」 「ぜってーヤベー!」超大焦り。 その時だった… 近くに居た検閲官(審査員)が僕のオシリを蹴飛ばした。 その時銃剣の感触を味わった! どうやらベルトが45度回って銃剣が背中にあったみたい。 急いで着剣して「本多二士準備良し!」と報告。 『突撃ーっ!!』の命令で銃を構えながら全力疾走。 最後の力を振り絞って「ヤァーーーーッ!」と叫びながら全力疾走。 敵の陣地を越えて敵兵に銃剣を突き刺すゼスチャーをして戦闘訓練は終了しました。 たったの15分。 この15分の為に日々訓練を積み重ねてきた僕ら新隊員。 見えない敵陣に匍匐前進。 見えない敵兵に銃剣を突き刺す。 最初はナンセンスだと思った戦闘訓練だったけど、この日この時の達成感は生涯二度と味わえないだろうと…今でも思います。 検閲の結果は… 何を基準にしたのか分からないけど『優秀』だった。 僕だって、他の隊員だって『これ以上に無い』くらい頑張ったんだもん! 不可(再検閲)だったら困るよ。 戦闘訓練という山をのり越えた僕らは、少しばかり大人の男になれた気がしました。 by606 |
戦闘訓練の検閲直前 |
戦闘訓練の検閲直後 |