160 予備自衛官の訓練に参加

 予備自衛官は退職間際に簡単な説明を聞いただけで志願した。  
 保険証券の裏に書いてある『甲は乙に対して丙である』みたいな間際らしい仕組み。  長ったらしい説明が嫌いだったので、適当に承諾したのも事実。  一年のうちに何日か必ず訓練に参加しないと登録を抹消されてしまう事も何気に覚えている。


 予備自衛官の訓練招集令状は退職してから時々郵便で届きました。  「このクソ忙しい時期に豊川駐屯地に5泊もできるかぃ!」と、ストレスにストレスが重なる手紙だったので握り潰してゴミ箱にポイ!  そのうちに茶封筒の裏に防衛庁と書かれた郵便物は封を開けずに捨てるようになっていました。


 退職してぼちぼち1年。  仕事に少し慣れて、仕事も暇な時期になった1月。  防衛庁からの郵便物が届いたので、「また訓練召集令状かよ!」と笑いながら封を開けてみたら…  案の定、来月の訓練召集令状だった。
 「2月は暇だから行ってきてもいいぞ。」と言う親父。  暇なら5泊で何処か遊びに行きたいわ。  でもまぁ一応は予備自衛官に登録されている事だし…  ちょっくら行ってみるか♪
 そんな軽い気持ちで返信用ハガキの『参加します』に○をつけて、身長・体重・靴のサイズを書いて投函。  即、家に案内状が届く手際のいい国家公務員。  暇かぃ!?


 そして迎えた予備自衛官の訓練日。
 朝飯を食ってから愛車で豊川駐屯地に向かいました。  集合時間は午前10時くらいだったかな?  豊川駐屯地の正門を真っ赤なMR-2で通過するのは見られサドの僕には快感でしたわ♪  たかがMR-2だけど、あの頃はまだ珍しかったでね。  マフラーを交換してたし!  ホイールも交換してたし!  しっかり洗車してピカピカだったもん♪
 でも草ボーボーの空き地に駐車を命じられて失敗という二文字を握り締めた。


 駐屯地の隊員に案内されるまま、入隊式を行った懐かしい体育館に入れられました。  そこには一段ベッドがズラーっと並んでいた!  「好きな場所(ベッド)を使ってください。」と言われたので、ストーブに近い暖かそうな場所を選択。  2月だもん!  広い体育館は寒いっすよ!


 そのうちに先ほど案内してくれた隊員が戦闘服と半長靴・そして鉄パチにライナーと…  戦闘訓練ができる服装一式を準備してくれた。  ちゃんと階級章まで(簡単に)縫い付けてあるし!  弾帯の長さを調節して約一年ぶりに本多士長が完成したのらぁ♪

 なんちゃって本多士長が完成したところで昼飯。  昼飯の頃には上は定年過ぎた老兵、下は22歳の僕ぐらいまでの予備自衛官が100人ぐらい集まった。  懐かしい同期生にも会えて盛り上がったよ。  午後も身支度だけで終わって晩飯。  豊川駐屯地の風呂は狭い!汚い!臭い!の三拍子だったのを思い出して、近所のスーパー銭湯に避難。


 そして大した事をしないまま予備自衛官の訓練一日目が終わった。  久しぶりの団体生活。  こんなに大勢で寝るなんて最後の演習ぶりかも!  消灯ラッパが懐かしかったぁ!  普段から早寝早起きの僕だったので、消灯ラッパが鳴る前には眠くてたまらなかったぐらい。  「やっと消灯だ。」  消灯ラッパが淋しく鳴り…  電気が消され…  消さ…  ん?  消えないぞ!  つか、誰も寝ようとしてない!  それどころか酒を持ち込んで宴会が始まり出したではないか!

 おおおおおおお眠れない(>。<)  大して疲れてないけど、僕の体内時計は深夜だぞ!  しかもストーブの周りに集まって来るからたまったもんじゃない。  石油ストーブめちゃ熱いし!  結局…  深夜2時過ぎまで宴が繰り広げられ、今度は体内時計の目覚ましが鳴る頃だ。  久しぶりに喰らった寝不足。  これが訓練か?  夜間訓練だったのか??


 静かになっても大きな石油ストーブの音と熱さで全く眠れなかった。  もう嫌だ!  怒りと無気力の2日目。  めちゃめちゃ空腹だったので朝飯は現役自衛官の2〜3倍は食ってやったぞ!


 2日目の訓練は射撃の練習。  定年過ぎた予備自衛官さんと一緒に匍匐前進&突撃訓練はできないもんね。  射撃訓練が一番訓練らしい♪  久しぶりに触った64式自動小銃。  匂いがこれまた懐かしかったぁ。  この独特の香り…  やっぱり僕はマニアなのかな?

 そんな射撃訓練も10分やったら30分休む感じで、疲れないように訓練します。  つか、ダラダラし過ぎているのを見るとイライラしちゃうくらい!  やっぱり僕は自衛隊気質なのかな?


 自衛隊を退職してこの1年間…  自衛隊の何倍も忙しくてキツい家業から、予備自衛官とはいえ自衛隊生活に戻ったら、自衛隊生活がスッゲー平和だったと事に気がつく。  公務員と民間。  自衛隊と自営業の違いがスッゲー分かった。
 だって予備自衛官の訓練2日目は、64式自動小銃の引き金を10回ぐらい引いて空撃ちしただけで終わっちゃったんだもん♪
 この日は晩飯食って家に帰った。
 別に点呼も無ければ掃除もない。  晩飯食って風呂に入ったら、どーせまた明け方まで宴会だろう。  そっちのほうが厳しいぜ!
 正門では「予備自です。」と言って、予備自衛官の手帳を見せれば出入りできる仕組みだから、明日の朝飯に間に合うように豊川駐屯地に戻ればいい。  明日は本格的な実弾射撃だ。


 翌朝は「予備自です。」と正門の警衛隊に手帳を見せて駐屯地に入る。  草むらの駐車場は嫌だったので、舗装してある外来駐車場にこっそり停めて、ラフな服装で朝飯を食べてベッドで寛ぎます。  国旗掲揚の時間(08:00)になっても誰も気をつけの姿勢をしません。  戦闘服を着たままベッドで横になっている。  これが普通なのだろうか?  そんな中で僕一人が国旗のある方に向かって気をつけの姿勢をとっても馬鹿丸出しです。  戦闘服を着て、その戦闘服の上に『違和感』という上着を着てる感じ。


 豊川駐屯地の朝礼が終わって間もなく、装甲車に乗せられて駐屯地の外にある実弾射撃場に向かいました。  前期教育隊で3回ぐらい行った懐かしい射撃場。  屋外にある射場なので雨じゃなくて良かったです。

 射場に到着して、地面に20丁ぐらい並べられた64式自動小銃の中から好きな小銃を選んで射撃するシステム。  まるでボウリング場の球みたいな64式自動小銃。

 僕の順番は遅いほうだったので、装甲車の中で寛いでました。  そのうちに懐かしい発射音が山に木霊し始めます。  「そうだったよなぁ〜… 現役の時も実弾射撃訓練の時は何10発か撃ったら一日の課業が終わっていた。」  今日も実弾を一人30発ぐらい撃ったら一日が終わる。  そんな生活してたんだよなぁ〜。


 「この銃めっちゃ当たるわぁ! これ当たり過ぎーっ!」  
 どこにでも居るお調子者が大声で喜びながら64式自動小銃を褒めてます。  射撃だけは自信があった僕は、そのよく当たるらしい小銃を目立たない位置に移動して隠しておきました。
 もちろん僕は隠しておいたその『よく当たる64式自動小銃』を持って射場に立ちました。  最初の3発は照準を合わせるために撃ちます。  

 「全弾同一弾痕!」  僕の監的手からの報告。  しかもド真ん中!

 「あのお調子者…  照準を狂わさずに小銃を戻したな♪」  僕だったら次に使う奴が困るように照準を激しく狂わせてから戻すのに…  ラッキー♪

 確かのこの64式自動小銃は当たりだ。  怖いくらいド真ん中に当たる。  未だにこれほど命中率のいい64式自動小銃が存在している事に驚いたよ。
 射撃検定の時はその場では結果が分からないけど、ちょっぴり表彰台なんてものが視野に入った。

 テメェの射撃が終わったら、優しくない僕は照準を上下左右めちゃめちゃに狂わせて64式自動小銃を返却。  「次に使う奴は苦労するだろうなぁ♪」とクスクス笑いながら返却してやった。


 久しぶりに訓練らしい訓練をしたので、昼飯は美味しく食べれました。

 午後は射撃検定の結果発表。  自慢じゃないけど僕…優勝しちゃいました(^-^)  準優勝は、あのお調子者だったから、呼吸困難になるぐらい笑いを堪えたのを覚えていますよ。
 午後の訓練は表彰台の一番高い所に立って、拍手を受けただけで終了。  30分で午後の訓練は終わりました。
 射撃で使用した64式自動小銃は、予備自衛官を受け持った中隊の隊員が手入れをしてくれるので、僕たちは撃っただけ♪  夢のような実弾射撃訓練だね!
 現役時代の実弾射撃訓練なら使用後の手入れは必死にやっても1時間ぐらいかかったもん。  分解して洗浄して組み立てて…  嗚呼♪苦労知らず♪  つか、もう64式自動小銃の分解組み立てなんて忘れてるから、どっちみち出来やしなかった。


 この日も家に帰って風呂に入って寝ました。  2月の暇な時期とはいえ、それなりには仕事があるので両親祖父母は僕が帰った時間でも仕事をしてました。
 さすがにこんな光景を見ちゃうと手伝わないといけない気分になっちゃう自営業の悲しい定め。

 何気なく仕事を手伝おうとしたら…
 「疲れとるんやろ?」  そう言う親父たち。
 「少しだけね。」と、豊川駐屯地から自宅まで車で走り疲れただけで、訓練では全然疲れていない事はこの際黙っておいた。  おかげで母親は肉をたくさん用意してくれたし♪


 翌朝…  なんだか自分がダメになりそうだったので豊川駐屯地には行きませんでした。  射撃訓練は面白かったけど、今日も一日ダラダラ過ごすだけかと思ったら、家で仕事をやっていたほうが自分のため&家族のためになると思ったからね。

 点呼をとらないから、僕が居なくなっても誰も気がつかないだろう。  万が一、駐屯地から電話がきたら「あれ!? もう終わったのかと思った!」と言って、急いで向かえば済むのでは?
 
 「とりあえず終わったから…。」と両親に伝えて、朝から家の仕事に精を出しました。
 電話が鳴るたびに「豊川駐屯地か?」と、ドキドキしながら普通に一日が終わった。  やっぱり行かなくても誰も気がつかない♪


 最終日の5日目も訓練に参加しませんでした。  どうせ行っても午前中に何だかんだ片付けて「はい!ご苦労さん!」という感じで終わるのだろうからね。  つか…  通勤とか通学をした事がない僕は、豊川駐屯地2往復が精一杯。  車の運転が好きな僕でも通勤は性に合わない事がよーく分かった。  もちろんこの日も豊川駐屯地からの電話はありませんでした。


 結局、僕が予備自衛官の訓練に参加したのは5日間中の3日だけ。  それでも後日、5日間の訓練に参加したという事で3万円ぐらいが送られてきました。  「おおおお♪ ありがたき幸せ!」  これならまた次回の訓練も参加に○をして全く行かなくても3万円貰えるのでは?  そんな甘い考えは、『二度と訓練召集令状が届かない』という仕打ちを喰らって幕を閉じた。


 まぁ懐かしい面々に久しぶりに行き会えたのと、PXで自衛隊グッズを買えたので良かったかな♪  無料&片付け不要の実弾射撃も面白かったし♪  だけどもう一度だけ自衛隊のカレーライスを食べたかったなぁ。  それだけ。
by606