150 親友

 中隊から除け者扱いされても親友だけは何も変わらずに…  それどころか親身になって付き合ってくれた。
 とかく頭(かしら)が「あいつはダメだ!」と呟けば、その下の者、さらに下の者という具合にいつしか失墜させられているのが常。  持ち上げられて突き落とされるのは誰だって堪える。


 僕が自衛隊に居た頃に友達は大勢できた。  同期生は同期という枠の中で空気のような存在として仲良くしていたけど…  中隊や班や居室、そして趣味などという枠を取っ払って一番仲が良かった隊員が一人存在しました。  ちびまる子ちゃんと、たまちゃんみたいな感じかな?
 その隊員は有名中学では3年間トップで、有名高校に進んでもトップを突き進んでいた頭のいい隊員。  しかしある日突然高校を中退して自衛隊に入隊。  そんな頭のいい奴がどうして自衛隊に?  誰もがそう思うはず。  たまたま人事幹部が教えてくれた中退理由が、『試験で初めて1番じゃなくて2番になったから』だとか。 


 いろんな理由で入隊してくる奴がいるけど、こういうタイプは珍しい。  僕より1つ年下で8ヶ月後輩になる。


 そんな奴だからなのか、先輩陸士からは態度が気に入られないからという理由でよく苛められていた。  苛めるほうはちっぽけな奴だし、苛められる奴も何か原因があると思ってる僕なので、それほど気にしなかったけど…  その苛め具合は日増しにエスカレートするばかり。  見るに耐えかねて、とりあえず常に近くに居てあげるようにした。  つか一緒に遊ぶようにしました。  ファミコンが好きな奴だったので、一緒にボクシングゲームをやるようになったのが最初だったかな?

 一人ぼっちじゃなくなった後輩。  それからは妙に気が合って、訓練場往復や三度の飯も一緒に話をしながら行ったのを覚えています。

 自分より弱い者しか相手にできない苛めていた奴らも、誰か一人仲間ができれば近寄って来ない。  大勢で一人を苛めてる奴らが何もできない光景は見てて面白かったです。


 いつしか日曜日も一緒に外出するようになり、暗いイメージだった後輩も信じられないくらい明るい後輩になった。  僕はもっぱら馬鹿丸出しの性格だったし…  たくさん居た後輩の中では、僕を一番頼ってくれる隊員でしたよ。  まぁ外出と言っても姫路に出れば映画観て、ゲーセン行って、CD買って王将で晩飯食って神姫バスに揺られて帰るだけのワンパターン。  今まで一人になりたくて一人で外出していたので、最初は面倒くさかったけど、いつしかたまに一緒に外出するようになっていた。

 大阪や神戸にも行ったなぁ。  男ばっかの環境だから彼女も居ないし…  まぁ一人で外出して一人で飯を食うのも淋しかったから、ある意味新鮮で楽しかった。
 あんな環境だったから、平日は仲の良い友達と職場で毎日遊んで、仕事が終わったらファミコンでまた一緒に遊んで…という日々。


 自衛隊生活(同期生以外)でココまで仲良くなれた奴はたった一人だった。
 50ccでツーリングもしたなぁ。  本当にたくさん喋って、たくさん笑い合った!  演習でタッグを組めば無敵だったし…  中隊旅行も隣の席で楽しく過ごせた。


 そして僕が自衛隊を辞めて、ワケあって翌週に一度駐屯地に戻った時に後輩の姿は無かった。  大好きな駄菓子をいっぱい土産に持って行ったのに…  僕が辞めて直ぐに後輩も辞めてしまったそうだ。  辞めるまでの数日間はもの凄く荒れていたそうで…  昔苛めていた奴で駐屯地に残っている奴に復讐をしたとか…。  背筋が凍った。  凄い覚悟を背負っていたんだなぁ。

 もう20年以上も前の事。  4年間の自衛隊生活で1つだけ悔いが残る事…  それはあの後輩の住所を聞かなかった事。  自衛隊を辞めても連絡が取れるようにしておくべきだった。  今みたいに携帯電話とかがあれば電話番号だけでも残っていただろうに。  残念で仕方ない。

 今でも時々「どうしてるかな? 元気かな?」と思ってしまうほど不思議な奴。  今となっては元気いてくれればそれでいい。
by606