142 陸曹候補生への道 其の弐

 面倒な事は後回しにしちゃう性格は今でも変わらないけど…  後回しにしちゃう事で結局大変な目に遭うのがこの性格の悲しい定め。


 たった2ヶ月でどれだけ勉強ができるのだろうか?
 何から勉強をすればいいのか?

 いや!  勉強して陸曹候補生に合格したら、僕は自衛隊に永久就職するのだろうか?  家の仕事はどうするの?  いろいろ考えるのが面倒だったので、とりあえず勉強をする事にした。


 過去の陸曹候補生の試験を裏ルートで入手して、要点をまとめながら午後8時くらいから自習室で勉強。  集中力なんて1時間も持たない。  時間だけが無情に過ぎていくので焦りと諦めばかりの毎日。
 

 そんなある日、人事陸曹から消防隊の任務を言い渡された。
 駐屯地内にある消防署で一ヶ月間勤務。  火事が起きない限り、狭い部署で一日中テレビを観て待機する仕事です。  つまり勉強ができる時間と環境を与えてくれたようなもの。  この一ヶ月間で猛勉強!  陸曹候補生よりも幹部候補生を目指す勢い。

 でも昼間はついついテレビを観ちゃうんだよなぁ(>。<)@


 消防隊での勉強は晩飯を食べて風呂から出てから本腰を入れてました。  暗くなってから寝るまでの1〜2時間、陸曹候補生を目指す他の中隊の隊員と一緒に、警衛所の面会室を使って勉強。  やっぱり夜の勉強って集中できるなぁ♪  競争相手が目の前に居ると倍以上気合が入る。


 ある夜、僕が勉強をしてる様子を副中隊長に発見されてしまった。  「頑張れよ本多!」とニコニコしながら出て行ったけど…  僕的には失敗だった。  『ヤル気』を見せるのが昔から嫌いだったので、ヤル気のないフリをして良い結果を出す狙いだったのに。  これではもっと勉強しなければならない。  大きな失敗だった。


 「本多士長〜 候補生の勉強捗ってますかぁ〜?」 と、警衛所から声をかけてきたのが自動車教習所(松山駐屯地)で免許取得の勉強をしないで陸曹候補生の勉強をしていた変な隊員。  僕より3ヶ月下の隊員だ。
 トップで合格してエリートコースに進みたがってる変な隊員。  普通隊員(高卒)でエリートコースなんて土台無理なのに…  人間は何故誰かより上に立ちたがるのだろう?  その隊員は大学中退だから僕より年上。

 「本多士長が必死に勉強をしてると聞いたので偵察にきたけど… まぁ皆さん頑張ってください。」と余裕の笑顔で消えて行った。


 火に油を注がれた感じ。  こいつだけは凹ましてやりたい!
 江藤なんざどーでもいい!  こいつに負けたら何か悔しいじゃん!


 通常、滅多に火事なんか起きない自衛隊。
 ところが誰の嫌がらせか…  夜、目の前の演習場で火災が起きた。  目の前の演習場で火災が起きてるのに、全然気がつかないでテレビを観ていた僕達。  駐屯地の正門の前をサイレンを鳴らしながら疾走する消防車を眺めていた僕。

 消防車を見送った直後、消防隊に演習場火災の一報が入った。
 オブジェとしか思っていなかった消防服をホコリを掃いながら着て、蜘蛛の巣だらけの消防ヘルメットを被って消防車に乗り込んで出発!

 どこかの町で活躍していた御下がり的な年代物のボンネット型の消防車。  全然走りません(>。<)
 演習場の火災現場に到着したら、既にたくさんの消防車が消火活動中。  うちらも負けじと放水するものの…届かない。  終いには邪魔者扱いされて…  役立たずのまま駐屯地に戻りました。
 それでも駐屯地指令からは、「よく頑張った! お疲れさん!」と労いの言葉を直々に頂いたぞ♪


 消防隊での夜は更に一生懸命勉強して、消防隊が終わって試験までの数日間は仲の良い3等陸曹になりたて(ちょっと前まで陸曹候補生だった隊員)に自衛隊体操をマンツーマンレッスンをしてもらいながら勉強も教えてもらった。


 そして迎えた陸曹候補生の試験日。
 初日は学科と体力測定。  翌日は基本教練の指揮官。
 学科は食堂にて自衛隊法に基づく筆記試験&知能検査。  体力測定は1500m測定がメイン。
 基本教練は定められた枠の中を3分という時間内で数人の隊員をゲーム感覚で行進させる。


 学科試験…  勉強した甲斐ってものはあるもんだ♪  分からない問題もあったけど、学生時代の答案用紙でもこんなにスラスラ記入できなかった。  アングリーパワー恐るべし!!
by606