137 ホークミサイル実弾実射訓練 其の壱拾弐

 「左5cm!!」


 (>。<)浮いた!  (>。<)ズレた!  (>。<)しくじった!!
 0.5cmくらいのズレならアクセルをグッと踏み込んでパレットを押してズラせてしまえば左右ゼロになるけど…  5cmのズレを無理して押し込んだら実弾が積まれているパレットが倒れちゃう可能性がある。
 ローダー車が止まった瞬間、一発でドッキングできたのかできなかったのか息を呑んで見守ってる日米合同ギャンブラーが、ローダー車を後退させてドッキングのやり直しを始めた時に明暗を分けた声が聞こえた。

 中隊長の顔にも喜びはなく…  賭けに負けたのがよく分かった。  僕を信用したのが間違いだったね♪

 5cmのズレを修正しながら再びドッキングを試みたけど、僅か数mmのズレが残ってしまったので軽くパレットを押し込んで左右ゼロ。  昨日僕たち4人が組み立てた実弾1本だけをローダー車に積み替えて発射機に向かいました。


 ローダー車の左右に他のML班二人が付き、ローダー車の前をML班長が歩いて先導。  ゆっくり進むローダー車は、遠くから見たらオモチャにしか見えなかっただろう。  オモチャの兵隊さんが実弾を運んでる♪


 発射機の前で直角に曲がって実弾搭載準備。  僕的には苦労はありません。  目立つ仕事ではあるけど、ローダー車に座って右足と両手を使ってML班長の誘導に従って発射機に搭載するだけ。  他の二人は発射機に上がったり降りたりして細かい作業をしています。
 無事に搭載を完了したら静かに舞台から去るのみ!  駐屯地での訓練では発射するフリをしてから実弾を再び積み替えて、バラしてコンテナに入れる作業があるけど…  僕たちML班4人の任務はここまでで終了。


 この時点から実弾の周りから人の姿は消えました。
 僕たちは分厚いコンクリート壁の後ろでARMYさんから状況を聞きながらヒマワリの種を食べて過ごす。

 「先ほど目標が飛ばされました。」という情報。  この目標とは無人遠隔操作で飛ぶ小さな飛行機。  これを目標としてホークミサイルを撃ちます。  大きさを増やすために飛行機の後ろに吹流しを付けて飛んでいるみたい。

 その目標は直ぐに射程圏内に入った。

 発射ボタンを押すコンテナの上に取り付けられているサイレンが鳴り響き…  まるで戦場を思わせる雰囲気に包まれた。

 いつ発射されるのか分からない。

 快晴なら目標を肉眼で見る事もできるそうだが、この日この時間には薄雲が広がっていて目標を肉眼で捕らえる事ができなかった。

 発射ボタンを押した瞬間にミサイルが飛ばなくて爆発するパターンもある。  いわゆる『自爆』というやつでして…  自分達に被害がでるだけのパターン。

 発射されたけど組み立て不良で羽がもげてコントロール不能になり、どこに飛んで落ちるかわからない事もある。  こっちに飛んでくる事だって無いとは言えない。


 僕は「顔を出しちゃいけない!」と言われつつもコンクリート壁の横から顔を出してミサイルが発射される瞬間を目に焼き付けたかったので、顔を半分だしてコッソリ見ていました。


 発射機がミサイルの先端を目標に向かって回り始め、リード角を上に向けたと同時にミサイルが発射された!! 






 発射されて1秒くらい後に『ドーン!!』という発射音。  僕たちが組み立てたミサイルは真っ直ぐ飛んで雲の中に消えて行きました。
 (上の画像はARMYさんに僕のカメラを渡して撮ってもらったものです。)


 どこまで飛んで行ったのか…
 目標に命中したのか…
音も無ければ爆発した光すらも見えなかったです。


 暫くして中枢と繋がってるヘッドセットをしていたARMYさんが「Kill! Kill!! DirectKill!!」と叫んだ。  通訳の自衛官が「目標に命中!」と教えてくれました。

 ホークミサイルは目標(飛行機)に直接命中するパターンと、目標付近で爆発して破片で墜落させるTechnicalKillという二つのパターンがあります。  採点的には直接命中させたほうがイイ♪  中隊皆の努力が報われた瞬間。  皆で肩を組んで歓喜の雄叫びを上げました。
 なんとなくスーパーDRYのCMを見てるようなシーンだったなぁ。


 日本国内では到底できないホークミサイルの実射訓練は、優秀合格という評価を受けて終了。  つか…  あっという間に終わってしまったのでいろんな感動とか実感とかが全然味わえなかったです。

by606




こっそり顔を出して見ていたコンクリートの壁の前にて