129 ホークミサイル実弾実射訓練 其の四 |
ASP本隊は訓練場にてダミーミサイルを使って敵機発見・敵機補足・追随・そしてミサイル発射までの手順を繰り返し訓練します。 もっともレーダーと指揮所の連携が一番重要で、発射機は発射姿勢から敵機の方向にミサイルを向けてリード角を微妙に取って発射したフリをする。 発射機には3つのランプが順番に光って、発射準備⇒発射⇒発射終了を確実に行った事が分かるようになっています。 ML班はこれまでにも書いてきた通りで、ダミーミサイルをパレット(ミサイルを積むトレーラー)から発射機に装着したら、訓練場から遠く離れた弾薬庫に移動して、ピラミッドみたいな土に囲まれて空しか見えない空間で実弾本体をコンテナから抜き出して、4枚の羽と方向を変える4枚の小さな羽を装着すれば組み立て完了! 至って簡単な事の様ですが… 実は恐ろしい程の精密さと慎重さを強いられます。 それに重い。 重いからこそ小さな重機(ローダー車)が必要なワケで… 精密さを強いられるからこそローダー車の操作は班長の微妙な合図で動かさなければならず… 落としたりキズを付けたら精度が落ちて命中しなくなるから慎重に扱わなければなりません。 つまり… ローダー手はメッチャ疲れる事が分かった。 メッチャ重要な任務だという事が身に沁みて理解できた。 中隊の朝礼が終わると直ぐに訓練場に移動。 既に発電機が唸り、レーダーは回っていました。 僕は訓練場に置いてある自分専用のローダーに乗り込んでエンジンを掛けるのが仕事の始まり。 時々エンジンが掛からなくて、メカニックの隊員に修理を受ける事も多々ありました。 訓練場内の制限速度は20km/h以下となっているので、のんびり走りながら弾薬庫に向かう。 最高速度は45km/hぐらい出たかな? キャタピラ車なので音と振動の激しさは今でも覚えてる。 頭の上にミサイルが落ちないように、606号みたいなバードケージ状の太いパイプで保護されています。 キュルキュルとキャタピラ独特の音色を奏でながら訓練場を走るローダー車は可愛かったですよ。 「弾薬庫まで行くから乗せてってくれ!」と言われれば安全な後部に積んで移動する時もありました。 一人乗りなので本当は乗せてはいけないのですがね♪ 自衛隊を3年もやっていれば、そんなに怒られる事もなかったです。 弾薬庫に着くと、警衛隊が面倒くさそうにゲートを開けてくれます。 そのまま組み立てる広場に進んで班長以下3人と合流。 3人とも缶コーヒーを飲みながら寛いでいるのが日常の光景。 3人から見れば僕がローダー車に乗って広場に来るのが日常の光景だったでしょうね。 8時の朝礼が終わってMLが訓練を始めるのは9時くらいからでした。 全員気合が入った頃合を見て「よしっ! 組み立てるぞ!」と班長が立ち上がって訓練開始。 班長は若いのにベテランASP要員です。 がっ! 他3人は初ASP。 それにミサイルを組み立てるのも初めて。 「本番までに○分で組み立てれるようにしなければならない。」 (組み立て時間は秘密事項) 「但し! 危険行為があれば減点やり直しもあるので、手順をしっかり覚えて焦らずに安全に行う!」 班長が一番最初の訓示をした後、長い筒状のコンテナの説明から始まった。 まず、完全密封されたコンテナの中には空気で圧力が加えられているので、コンテナ内部のエアー抜きを行う。 なぜコンテナにタイヤみたいに空気が入れられていたのかは知らない。 たぶん運搬中に転がり落ちても衝撃が減るからなのではないかな? その空気を抜かずにコンテナの蓋を開ければ、蓋と一緒に確実に吹っ飛ばされる。 この事故で亡くなった米兵もいるそうだ。 のっけから怖いじゃん! 何箇所かの小さなバルブを開放してエアーが抜け切ったのを音と圧力計で確認してコンテナの蓋を開ける。 レールの上に乗ったトロッコみたいな台車の上に積まれた実弾の弾頭が姿を現しました。 ド級の迫力! 略してド迫力。 ダミーミサイルと実弾との区別は一目瞭然! ダミーミサイルはベージュ一色。 実弾は弾頭が焦げ茶色で各部にDanger Attention Warningと赤い字で書かれている。 各部の締め付けトルクも小さな数字で書かれてます。 なによりも発するオーラが違った! 戦争マニアとか兵器マニアが見たら涎モノだろうなぁ。 前期教育隊の射撃訓練で、64式自動小銃の実弾(NATO弾)を初めて手にした時のドキドキ感が甦った。 あの時はコレ1発で人を殺せると思って、実弾を握る手が震えた覚えがある。 とんでもないモノだと…。 国防=人殺し? 他に意味の無いモノだ! そして今、目の当たりするホークミサイルの実弾は64式自動小銃の弾の何倍あるのだろうか?? 大人よりデカイ。 胸が押し潰されるぐらいの圧迫感を感じました。 by606 |