123 演習の思い出 其の八
 
 【エピソードE】 戦死(後編)

 発射機を一人で撤去なんてできない!
 同じ給料で戦死者はポカポカ陽気の下で寝ているだけ!  本当に戦争だったら、そりゃあ命がけで発射機を撤去しようとするかも知れないけど…  たぶんやらないだろうし、間違いなく嫌になるだろうな。


 とりあえず一人で出来る事から始めた。
 発射機をカモフラージュする擬装網を骨組みから外して畳んだり、発射機の脚を固定する金具を地面深くから抜いたりしました。
 3人だったらとっくに終わってる作業が1人だと全然捗らないから苛々する!  他の2人もそうだけど、大勢の戦死者を思い出すと超苛々した。  江藤は要領いいわ!  しっかり爆睡してやがったし!

 怒りに任せて作業を進めた。


 しかし、どう考えても発射機を1人では撤去できない。  むしろ危険だ!
 とりあえず諸元ケーブルと電気ケーブルだけでもリールで巻き取ろう。  1人で長くて太くて重たいケーブルをたぐり寄せてはリールで巻く。  なんとなく1人でも出来そうな作業だったけど…  それも無理だった。
 もう何も1人で出来る事なんてないぞーっ!  もう疲れた!  なんで1人でこんな苦労しなきゃいけないんだぁー!と草むらで寝転がっていたら戦死者復帰の知らせがきた。
 「ゾンビかよ!」  無意味な戦死者などという状況を作りやがって。


 戦死しなかった隊員は苦労が分かったけど、戦死した隊員は楽を知っただけやん!  それってどーなのよ??  生き残る事のほうが何倍もツライって事??


 しかし、この後で事態は更に悪化した。
 僕の腕は既に限界に達してしまったみたいで、全く力が入らなかった。  半日以上もポカポカ陽気の下で休んでいた隊員はソーラーパワーをフル充電したかの如く元気に動いている。  それに対して僕は上半身使い物にならず。  下半身は立っているのが精一杯。


 「本多ぁ、走れや!」  「しっかり持てや!」と怒鳴られる始末。

 「あのなぁ! あんたらが寝てる間に頑張り過ぎて力が入らんのじゃ!」と言いたかったけど…  「もう腕が限界です。」としか言えなかった。  言っても分かってもらえなかったし。


 フラフラヘロヘロになって撤収完了。
 
 「本多ぁ、疲れとるのは皆同じなんだから甘えた事言うなよ!」と江藤に言われてぶっ飛ばしてやりたかった。  


 戦死者を出すという状況はこの時が最初で最後でした。  幹部も意味が無い状況だと判断したのでしょうか?  そこら辺は未だに謎ですが…  せめて前回に戦死しなかった隊員を戦死させて、戦死した隊員を生き残らせて撤収させてほしかったなぁ。  疲れと怒りしか残らなかったよ。


 『状況』  いろんな状況があったけど、コレは実際には必ずある状況だけど…  「撃っていいですか?」と上官に聞いて、その上官がさらに上官に聞いて、さらに上、上、上と判断を仰いで、一番上が「撃っていいですよ!」という判断を下の隊員に伝えて、さらに下、下、下と伝わる頃には全員戦死ですわ。  そんな演習だったら戦死の練習してたほうがマシだよね。
by606