118 演習の思い出 其の参

 ハチャメチャな演習なのか? ハチャメチャな送別会なのか?  僕にとっての初代中隊長は、満足感たっぷりに転属して行きました。


 【エピソードB】 迷子になった挙句…

 「今夜はゲリラの活動が活発になるので、各ポスト(監視場所)及び各機材毎に警戒を厳重にせよ!」

そんな命令を受けても、何がなんだか分からないから班長以上から言われた事をするしかない陸士。  夜間のゲリラ戦なんて高射特科部隊にとっては大の苦手分野だろう。  手榴弾1個で機材1個軽く破壊できる。  中枢を破壊されればレーダーも発射機もただのオブジェと化す。  地対空ミサイルでゲリラはやっつけられない。  つか…  ゲリラなんて一人現れたら即全滅だろうなぁ。


 太陽も沈み…  月の出ない真っ暗な演習場。  星の輝きで辛うじて自分の手のひらが確認できるぐらい暗いのが演習場です。


 「本多! 第4ポストの江藤と交代しろ!」  テントの外で仮眠していたところを揺さぶり起こされた。  深夜1時過ぎ。  レーダーや発射機に電力を供給する発電機の音しか聞こえない。
 
 「第4ポストって何処ですか?」  眠い目を擦りながら小隊長にポスト位置を地図で教えてもらいました。
 とりあえずは真っ暗な道なき演習場を、足元を這っている真っ黒な有線電話の細いコードを見ながら第4ポストに向かってダラダラ歩きました。  5分ぐらいでポストらしい場所に到着。

 「江藤! 交代に来てやったぞ。」  同期なのでタメ口で告げたら、「誰が江藤やねん! 俺は谷崎や!」と…  「あれ? あ! ご苦労様です。 ココは第4ポストじゃないのですか?」  やや焦って尋ねたら、全然違う方向の第2ポストだと邪魔くさそうに言われた。


 w(@。@)w 第4ポストって何処??


 谷崎3曹に第4ポストの方向を教えてもらい、背負っていた64式小銃を抱え直して駆け足で第4ポストに向かった。  江藤の事だから、ちょっとでも交代に遅れたら、上官にどう報告されるか想像がつく。  よりによって江藤とは(>。<);


 焦る気持ちとは裏腹に第4ポストは全然現れない。  汗びっしょりで途方に暮れて歩いていたら背中に銃口を感じた。  

 「誰か!?」  低く小さい声で後ろから誰何(すいか)された。

 「本多一士」  そう答えたけど変事がない。  そのうちに一人だった気配が二人の気配になり、三人、四人と気配が増えた。
 ちょっと待てよ…  なんで僕が誰何されなければイカンのよ?  僕がゲリラを誰何するのが訓練じゃん!

 振り向いて腰を落として小銃を構えて「誰かっ!?」と逆に誰何したら…  スッゲー大勢の見知らぬ雰囲気の奴らがバリバリにカモフラージュして立っていた。  カッコ良く誰何したつもりが大勢に取り押さえられて連行。  「これって訓練ですよね?」  「皆さん何処の部隊ですか?」  「ゲリラ役上手ですね!」と…媚を売りながら、あまりの迫力とリアルさに感動しながら演習場内のトーチカに案内された。


 「お前誰や?」とレンジャーバッヂ輝く陸曹が睨む。  w(@。@)w 誰??  この人達誰なの??  誰一人として見た事無い!
 「テメェ何処の部隊や?」  もしかして僕は違う部隊が演習してる区域を彷徨っていたの??


 と…  レンジャーバッヂ輝く陸曹に、拘束されるまでの事を話すと全員大笑い!  即解放してくれた。  どうやら普通科の演習区域に踏み込んでいたらしい。  ちょっと怖かったけど僕も大笑いでトーチカから出ました。


 つか…  いったいココは何処?

 その頃、第4ポストに僕が全然来ない事に苛立つ江藤と、行方不明になって心配してるCP(中央指揮所)。  夜が明けるまで我が部隊の位置が分からずに、プチ遭難していた僕でした。  後で結構怒られたけど、開き直っていた19の夜。
by606