116 演習の思い出 其の壱

 演習の思い出…  演習は毎回始まる前から終わって落ち着くまでの全てが思い出ですが、1から10まで毎回の演習を書くのも疲れるから特に濃かった(忘れられない&忘れたい)シーンを選りすぐってみました。
 いつだって一生懸命&必死に頑張ってきた演習。  それ故にNGシーンや感動・感激のシーンがいくつもありました。


 【エピソード@】 カモフラージュ

 今でも迷彩色は好きですが、当時も発射機やレーダーをカモフラージュするのは大好きでした。  これぞ陸上自衛隊!って感じで、結構カモフラージュには萌え燃えました。
 
  
 個人のカモフラージュは、顔に関しては女性が持ってるコンパクト同様のカモパックという黄緑・緑・茶・黒色のクリーム状の色を指で顔に塗る化粧道具を使って、肌色を消します。  白目だけが浮くから結構不気味。  夜なんてかなり怖いです。

 腰から上、頭は鉄パチ(鉄製の防弾ヘルメット)にも擬装網を装着しているので、網目に葉っぱや草を挿して人影を消します。  特に肩のラインを消すと、草むらに入れば見事に周囲と一体化する。


 この作業は深夜から夜が明けるまでに行います。
 先に個人のカモフラージュをしてしまうと発射機やレーダーの擬装がやりにくくなるので、軽装のうちに機材のカモフラージュをします。  正直これだけで結構フラフラ。  大きな発射機やレーダーをカモフラージュするには、葉っぱや草だけでは、それこそ夜が明けてしまう。  大きな木をノコギリで切り倒して、それをゴッソリと機材に被せたりもした。


 疲れきったところで個人のカモフラージュ。  夜明けまであまり時間がない状態。  しかも機材の周辺には既に草木はあまりなく…  階級の上の人(横着な人)からどんどん個人のカモフラージュをしちゃうから、さらに草木がありません。


 そのため陸士クラスになると、真っ暗な道なき道を、鎌1つ持ってかなり遠くまで歩いて草木を見つけて、自分で刈って自分で装着する。  誰かとペアになってカモフラージュし合うのは新隊員教育期間の時だけ。


 この時もずいぶん一人で遠くまで歩いて小枝を折ったり、草を刈って全身に装着しました。  真っ暗闇の中での作業は結構大変。  背中は勘で小枝や草を挿す。
 顔の周りにもいっぱい草木を挿して目一杯のカモフラージュを施してから小隊に帰ります。


 進んで来た道をトボトボ歩いて小隊に戻ってる時に首筋がスッゲー痒くなってきた。  軍手を外してボリボリかきながら小隊に戻った時には半端じゃない痒さに襲われ…  次第に痒みは腕や顔にも広がりました。


 「小隊長! なんか知らないけど全身がめちゃめちゃ痒いです!」と半泣きで報告。

 「漆の木でも挿してんじゃねーのか?」と懐中電灯で確認してくれたけど漆の木ではなかったので、「なにかにかぶれたんだろ!」と軽く流された。
 実際、大ケガでもしない限り相手にはしてもらえません。  『痒い!』なんて「甘えてんじゃねーぞ!」と言われるのがオチ。


 しかし痒みは治まるどころか、酷くなるばかり!  痒い箇所は広がるばかり!
 そんな痒みに耐えながら夜が明けるまで仮眠体勢。


 次第に夜が明け…  午前4時くらいに戦闘態勢のサイレンが鳴り響いて目が覚めた。  64式小銃を抱えて発射機までダッシュ!  バラキューダ(擬装網)を外してミサイルが撃てる状態にしてダッシュでテントに戻る。  テントの入り口付近で64式小銃を立て掛けようとした時に、僕の右腕に小さく動く無数の物体を確認した。

 (>。<) 毛虫だらけだーっ!!


 大きな毛虫じゃなくて米粒ぐらいの毛虫。  半端じゃない数が全身を這っている。  

 「本多! さっさと擬装を外せ! 服脱げ! あっち行け!」と…  まるで時限爆弾を背負ってる隊員の扱い。

 「衛生隊を呼んだから処置してもらえ。  なにやってんだバカ!」と…  そんな事を言われたって、こんな小さな虫なんて見えないし!


 そのうちに衛生隊がやって来たけど、演習場のド真ん中でパンツ一丁で立ってる僕を見て大笑い。  そりゃそうだよね。  周りは戦闘モードなのに僕一人だけコントやってるみたいなんだもん。
 
 「そのままジープに乗ってください。 駐屯地で体を洗ってから新しい戦闘服に着替えないとダメです。」と言われたままパンツ一丁でジープに乗って演習場を出て駐屯地に帰りました。  たまたま駐屯地裏での演習だったので良かったです。


 駐屯地の起床時間まで1時間以上あったので、居室から着替えと風呂道具を持って来てから洗面所の水で全身を洗いました。  そりゃあ気持ち良かったですよ〜♪  痒みも不思議と無くなりました。  
 ついでに頭を洗っていた時にヤカンを持った隊員3人ぐらいが洗面所の入り口にある給湯器からお湯を移し始め…  まぁ朝早いし、フルチンで挨拶してもお互い気不味いだけだから見て見ぬフリ。  ヤカンを持った隊員も新兵なのか、うつむき加減に見て見ぬフリ。  たぶん炊事班の隊員だと解釈。


 泡を流してタオルで拭いている時に3人の隊員は重たそうにヤカンを持って出て行きました。

 僕もフルチンからフルメタルジャケットに変身して隊舎横で待つ衛生隊のジープに歩いて向かいました。  その途中でさっきの3人とすれ違いました。

 w(>。<)w 婦人自衛官やん。  

 男ばっかの駐屯地だからノーマークだった。  しかもこの後で演習に戻ったら朝飯の時にまた遭ってしまったし…  毛虫のおかげで酷い目に遭いました。
by606