114 大型免許取得 本試験 路上教習 復路
 当時、桂浜はおろか坂本竜馬すら興味がなかった僕。  それでも結構楽しめた桂浜でした。  いつかまた来たいと思いつつ…20数年が経ってしまった。


 復路はの〜んびり景色を眺めたり昼寝をして帰れる。  面倒な事はさっさと終わらせて楽になりたい性格は今も変わらず。
 幌を張った教習車の一番前に座って寝れば、運転席(助手席の教官)からも後続の教習車からも見られる事がない。  悪巧みなら得意♪


 景色を見たがって最後尾の席を奪い合う隊員を尻目に、一番奥に腰掛けて出発。  さっさと仮眠体勢。  できれば横になりたい。
 
 心地よい振動ですぐに眠れた。  仕事をやってても、隠れて昼寝をしてても給料が同じなのが自衛隊。
 夢見心地で松山駐屯地まで帰れると思ったら、急ブレーキと教官の怒鳴り声で目が覚めた。  急ブレーキを踏まれると大人しく荷台に座ってる隊員は一番前まで吹っ飛んできます。  一番前に座っていた僕は、木枠に痛いほど張り付く。

 「何? 何? なんなの??」
 どうやら路肩に駐車してあった乗用車を避けた際にセンターラインを割って、対向車と擦れ違ったらしい。  今でこそよく遭遇する状況だけど…  こんな状況は教習所ではまずない。
 いわゆる三点交差という状況で、とても危険な事だとは聞いて注意はされていた。

 運転席からは怒鳴り声と鈍い音が鳴り止まず…  速攻でドライバー交代。  教官…  今までに無い怒りのオーラが漂っていた。


 完璧に目が覚めた!  恐怖で眠れないし…  さっきまでの遠足気分は微塵もなくなった。
 
 復路を受け持つはずの3人は1区間で全滅。  2区間からは荻ちゃんから始まる。  まぁこの後は福ちゃんと続いて終わるから、僕って結構イイ位置だったよなぁ〜♪と安心した。


 荻ちゃんは普通免許を持っているから市街地だろうが山間部だろうが関係なく得意。  福ちゃんはかわいそうだよなぁ。  また復路の3区を走らせられる可能性があるんだもん。  顔色悪くなっていた。

 復路の2区間が終わり、ラスト1区間!  案の定、福ちゃんが指名された。  松山市内という一番の難所だ。  ここを荻ちゃんが走れば良かったのにね。
 朝よりも交通量の多い松山市内を福ちゃんが教官に怒鳴られながら運転しています。  こんな交通量の多い場所で急ブレーキはないだろうし、ましてやドライバー交代もないはず。

 と… 思っていた矢先に急ブレーキ!
 今度は速度が遅かったので、最後尾から半分くらいまで吹っ飛んできました。  今度は何かと思っていたら福ちゃんが交差点のど真ん中で蹴り落とされています。  
 「本多ぁーっ! さっさと交代せいやっ!」
半端じゃない形相の教官。  朝と今とでは大魔神が変身する前と、変身した後ぐらい違う!  めっちゃ怖い。
 走り出して気がついた事…  左のミラーが無い(@。@);
 どうやた福ちゃんが左に寄り過ぎて街路樹にHITさせたらしい。  教官の足元にはバラバラになったミラーが散乱してるし。


 これまでにない緊張感と恐怖感を背負って松山駐屯地に帰還。  正門の前で一旦停止し、警衛所の前でまた一旦停止。  ゲロ吐きそうなくらいキツかった。


 これで僕たちの長くて短い3ヶ月の教習が終わった。


 終了式では一番優秀だった隊員が表彰された。  僕の同期生だったよ。  仮免で落ちちゃった僕なんかが貰えるワケないし♪  まぁ新隊員教育期間並みに厳しかった3ヶ月間だっただけに、単に思い出は多い。


 教官から僕に一言。  「本多。  おまえは調子にのる性格だから、事故を起こしやすい。  いつも慎重にハンドルを握るようにな。」と厳しくも優しい言葉を頂いた。  「あ… それからたぶん坂道発進の時は必ず仮免の事を思い出すだろうな♪」と笑い飛ばされたので、そんな事ねーよ!と思いながら僕も一緒になって大笑いした。

 それなのに…  今でも坂道発進の時は松山駐屯地の教習所のあの坂を思い出しちゃう。  トラウマってこういう事なのね。


 あれから20数年。  今でも厳しかったあの3ヶ月間をリアルに覚えている。
 なぜあれほど厳しく教えなければいけなかったのか?  それは数日後、自分一人で車に乗った時に分かった。  車って一つ間違えれば人の命を奪う道具になってしまう事。  その怖さを教えようとしていたに違いないと。
 
 いろんな事は時間を経て分かってきた。  教官が教えた隊員が各自の駐屯地で装甲車を運転してたり、乗用車を運転していて重大事故を起こした場合は、教官に責任が降りかかる。
 教官もいろんな覚悟を持って、僕たちに接してくれていたのだと。


 町の自動車学校(自校)で免許を取得したばかりの友達が言う。  「隣でブレーキ踏んでくれる人が居ないと怖くて乗れない!」と…

 あの自動車教習所(自教)で免許を取得したばかりの僕が言う。  「隣に誰も乗っていないほうが気楽に運転できる!」と…


 大型免許を取得して数ヵ月後に中型自動二輪の免許を取りに町の自動車学校に通いました。  なんとも素敵な雰囲気と楽しさ。  怒られない。  殴られない。  楽しく中型自動二輪の免許を取得できました。
 ここでは免許を取得できるだけで、免許を取得する意味までは教えては貰えない。  そんな必要なんて不要なのかも知れない。  隣に座った教官と笑顔で楽しく路上教習をしてる教習生を今でも羨ましく思う事があります。


 松山駐屯地では免許を取得する当たり前の事以上の、もっと当たり前の事を教えて貰えた気がする。
 怒鳴られ…  殴られ…  蹴られ…  血を流し…  たくさんの理不尽さを覚えた。  でも面と向かって教官に言える。  「ありがとうございました!」と。


 松山駐屯地から制服を着てJR松山駅まで思い出深い教習車で送ってもらいました。  かなりの年月が経っているので、今はもう廃車解体されて姿はないだろう教習車。  悲しいかな写真が無い。  探したけど無かった。


 JR松山駅で3ヶ月を共にした隊員と別れて、瀬戸大橋を越えて青野ヶ原駐屯地に帰りました。
 3ヶ月トリップしてる間に、自分の居室にはまた新兵が入っていた。  たった3ヶ月でたくさんの事が変わっていたよ。  まぁ一番嬉しかったのは、僕と入れ替わりで江藤が松山駐屯地に行った事。  さらに3ヶ月(都合半年)顔を見ないで済むと思うと嬉しかったなぁ。


 喉もと過ぎればなんとやら…
 免許を取得すると車を運転したくなるのが悲しい定め。  自衛官は勝手に車を買う事ができません。  がっ!  隠れて買う事は可能でした。  そりゃあバレたら大目玉ですが…  まぁスッゲー田舎の駐屯地だったので、車を置かせてもらえる民家を探して、友達と二人で車を買っちゃった!
 その頃は中古で20万前後で買えたAE86を手に入れて、夜な夜な六甲に走りに行っては、必ず両サイド凸凹にして帰ってました。  ある夜、ガードレールを突き破って谷に落ちちゃった。  悲しいかな…これが最初に買った車の思い出。


 教官…  ごめん! やっぱり調子にのった。
by606