112 大型免許取得 仮免許試験
 いろいろな事があったけど、なんとか仮免許試験を受けるまでに漕ぎつけた。


 36名中、今日までに一人の脱落者が出ただけ。  その一人は過去に事故を起こして免許取り消しになって現在に至っていた隊員。  一見普通の隊員なのだが…  僕らが必死で学科試験の勉強をしてる時に、なぜか陸曹候補生になる勉強をしている妙な奴でした。  もっとも同じ駐屯地から行ったので、それなりに『頭のおかしい奴』という噂は聞いていたし、僕が糧食班に居た時にも同じ班で仕事をしていたので身を持ってどんな奴なのか知っていた。

 結局、免許取り消しになったような人間に教えるような事はない!という感じで、常に弾かれていた気がする。  弾かれているのに今やるべき勉強をせずに、違う勉強をしていたら駐屯地に送り返されるのは当たり前。  
 この隊員とは自衛隊を辞める間際に、ある事を競い合うのだけど…  今思えばさもない事だったなぁ。  こんな奴相手にした僕って人間小さいです。


 仮免許の試験は半日を費やします。  午後は休み。  さっさと終わってゆっくり寛ぎたい。  仮免許の試験なんて無意味で茶番な試験だとしか思わなかった。


 僕の順番は最後のほうでした。  待ちくたびれて集中力が欠けてきちゃうぐらい暇でした。
 試験官は他班の教官。  教育隊長は木陰にテントを張った下で義理なのか?義務なのか?分からない顔をして眺めています。  「これぐらいの事なら人形でもできるぞ。」と…誰かが言ったのを覚えています。  確かに!  のりピー人形が置いてあったほうがまだマシ♪


 「前方よし! 後方よし!」とマニュアルに従って教習車に乗り込みました。  シート調整をしてる最中に試験官が助手席に乗り込んできます。  (>。<)この前一触即発になった教官やん!
 「いつになったら土産持ってくるんだ? 本多よう!」と…  冗談で言ってるのか本気なのかさっぱり分からない。
 「先週は外出してないんで…。」  
 「他の二人も外出しとらんのけ?」
 「あ、いや知らないです。」
 「まぁいいや。 発進せぇ。」と…  「はい宜しくお願いします! 右よし! 右後方よし!」と、いつもより気合を入れて喚呼操縦で発進。


 「試験官が誰であろうと関係ない。 いつも通りに決まったコースをキチンと走ればいいだけの事。」


 S字もクランクも車庫入れもスムースに通過して、最後の坂道発進に向かった。  急な坂の途中で教習車を一旦止めて、サイドブレーキを使って発進します。  スーっと下がったら即危険行為でOUT!  結構緊張する瞬間です。
 半クラッチでゆっくりサイドブレーキを下ろして前進…  できずエンスト。
 「あれれ?」
 再びエンジンをかけて同じように発進したけど、もの凄く重く感じる発進でまたエンスト。


 (>。<)もう1回エンストしたら走行不能でOUTだ!  仮免許試験で落ちるワケにはいかない。  アクセルの踏み込みが少なかったんだ!と思って半クラッチからグイっとアクセルを踏み込んだ。  踏み込み過ぎたのか後輪がスピンをしてタイヤから白煙を出した。  試験官がおもいっきりブレーキを踏んでエンジンストップ。
 走行不能という事でその場で試験終了。  仮免許不合格決定。


 この試験で不合格になったのは35人中3人。  その中の一人になっちゃった(>。<)@
 
 午後からは再試験という事で、他の32人の隊員は自由時間。  不合格者の出なかった教官は帰宅できるという特典つき。

 「本多… なんで坂道発進ができなかったんだ? 今まで失敗した事なかったじゃねーか。」  「午後は家帰って庭の手入れする予定だったのに…おまえ一人の為に俺の午後が台無しだなぁ。」
 散々言われた。
 でも何も言えなかったし、一言言い終わるたびに「すみません。」と返すしか術はありませんでした。


 仮免許試験が終わった隊員はパーティー気分で居室で寛いでいます。  不合格だった3人だけ葬式真っ最中。  これが『明暗』だと…二十歳を過ぎて知った。


 午後1時。  教官3人、隊員3人、教習車3台という今までにない寂しい雰囲気の中で再試験が始まった。  今回も試験官は違う教官。  朝の教官は既に帰宅して居ない。

 午前中の仮免許試験よりもドキドキしながら、S字もクランクも車庫入れもスムースに通過して、最後の坂道発進に向かった。  スッゲードキドキした。  これでまたエンストしようものなら人生がこの坂の途中で終わる気がしたぐらい。  僕的には心臓破りの坂だった!
 
 半クラッチでゆっくりサイドブレーキを下ろして前進…  スーっと発進できた。  「はぁ? 朝はどうして前に進まなかったの? 同じように発進したのに!」
 

 とりあえず安堵の顔で出発地点に戻って試験終了。  普通に合格。
 「すみませんでした! ありがとうございました!」と教官に何度も何度も頭を下げました。  「ところで本多よぅ… あの教官に何か嫌われるような事でもしたのか?」と…  身に覚えがあったので、「ちょっと前に教官が福ちゃんをボコボコにして一人で帰ってしまった後でいろいろあって、あの教官に少しだけ反抗的な態度をとって怒鳴られました。」と白状した。

 「そうか。」とだけ言われて一日が終わった。


 20年以上経った今なら僕は声を大にして言える。  
 あの教官(最初の試験官)は坂道発進の時に助手席のブレーキを…
by606