109 大型免許取得 其の八

 【実技教習 B】

 「今まで運転するのが怖くて嫌だったけど、今日はなぜか楽しく気持ちよく1時間の実技教習ができました。 たった一時間だったけど運転が上手くなった気がします。 また明日から頑張って実技教習に励みます。」

 素直に書いた対話帳…  朝礼前に手元に戻ってくる。  どんな返事が書いてあるのか、ちょっとワクワクです。
 ページをめくっているうちに、昨日書いたページの裏が返事の赤ペンでギッシリと書かれているのを確認しました。  驚いてページをめくって更にビックリ!  文頭…

 「運転が上手になった気がする?  ナメとんのか!」と…。

 全文は覚えていないけど、こんな様な事が書いてありました。  「テメェみたいな奴が調子こいて運転して事故を起こすのじゃ! 昨日今日ちょっと練習しただけで上手くなったと感じとんのなら今日から一人で練習せーや! ボケが!」


 濃いコーヒーの何倍も目が覚める返事だった。
 それは一週間分の2ページを全部使って書いてあったのを覚えています。  正直足が震えるほど怖い返事でした。  これまでの自衛隊生活と此処での暴力と言葉の暴力には免疫がついていたけど、文字の暴力はさすがに効いた。
 自分が何を書いたか読み直してみて気がついたよ。  完全に天狗になってる文章。  どうしてこんな事を書いてしまったのか…今でもわからない。


 その日の実技教習は悲惨なものでした。  怒鳴られ、殴られ、運転席から蹴り落とされる始末。  口の中は酷く切れて水すら口にできなかった。


 もう怖くて対話帳なんて書けない。  それでも書いて提出するのが任務(仕事)だから書いたけど…  今日やった実技と学科教習を箇条書きした程度。  思った事や感じた事なんて怖くて1つも書けなかったです。  なにが対話帳だっ!  そんな事があってからは当たり障りの無い事を書いて提出するようになりました。




 午前中が学科教習の日はお昼御飯を定時に食べて、お昼休みも30分以上あります。
 しかし午前中が実技教習だと、正午に終わって教習所から帰って、走行後の点検手入れをしてから食堂に行くと、飯にあり付けるのが12時半くらいになっちゃいます。  食べ終えて居室に戻れば即昼礼。  休む時間が全くありません。  さらに即学科教習なので学科教習中に居眠りしてしまうのは普通の人間だと思います。


 正直、昼飯を食べに行くより休みたかった。  教習中は予科練の如く…  教習中以外は奴隷の如く…  そんな午前中が終わった後で遠い食堂まで行きたくなかったです。  その往復の時間をゆっくり過ごしたかった。
 だから僕は夕方に売店で翌日の昼飯を買ってロッカーに隠し…  昼飯は居室で寛ぎながら食べてました。  
 食中毒など起こしたらマズイので、もちろん腐らない食べ物を選んで食べていました。  いろんなモノを食べたなぁ♪  その中で中毒の如くハマったのが『東ハト オールレイズン』でした。  


 『オールレーズン』はパンに似た駄菓子で…  簡単には腐らなかったし、結構お腹が膨れた。  自販機で牛乳を1本買って飲みながら食べる癖が定着してしまった僕は、朝昼晩の3食をオールレーズンと牛乳だけで済ませた事もあったほど。  
 最初のうちは売店で1袋か2袋買っていたのが、気がつけば20個入りを箱買いするまでに至った。  一日中オールレーズを食べていても飽きない。  むしろ普通の御飯が嫌いになったほど!


 そんな食生活を1ヶ月以上したかな?  誰にも気づかれず…  ひたすら食べた。
 食堂往復を3回しないだけで恐ろしいほど時間に余裕ができました。
 朝飯に皆が行ってる間はトイレも洗面所も洗濯機も並ばずに使える。
 昼飯は体を休めながら食事ができる。
 晩飯は皆が行ってる間に空いてる風呂に行けるし、これまた洗濯もできる。  至れり尽くせりの日々だった。  皆に教えてやりたいくらいでしたよ。


 しかしそんな至れり尽くせりの日々は、ある暑い日の朝礼でとんでもない事態を生む事になる。
by606