106 大型免許取得 其の五

 【学科教習 後編】

 本当の学科試験(愛媛公安委員会での筆記試験)は100問で90点以上が合格。  89点以下だと再試験。  もちろん学科試験は松山駐屯地のコースで卒業検定を合格した後に受ける事になっていました。


 教習所で2ヶ月ぐらいが過ぎた頃から、毎回50問だった〆のテストが100問になった。  しかも本番を想定してのテストだったので結構真剣に臨んだ記憶があります。  
 問題文のブービートラップによる引っ掛けには注意しました。  最後まで問題を読まないと必ずトラップがある事も学んだし…  微妙な数字の違い(mをcmで表記してあったり)を見抜くのも場数を踏まなきゃダメですね。


 何が一番嫌か…
 それは、もし愛媛公安委員会での筆記試験で落ちたら、落ちた者だけで翌日また試験を受けに行かなければならない事。  これは嫌だった!  これだけは嫌だった!  だって制服着て一人で電車やバスを乗り継いで行くんだもん。  モチベーションだって落ちてるし、また落ちたらヤバイというプレッシャーだって計り知れないだろう。

 つか…  3ヶ月間、免許を取得するためだけに生活してきて落ちたら何を言われるか??  あと2年弱の自衛隊生活の間、ずっと背負って生きていかねばならないだろう。  
 皆さんの血税で愛媛公安委員会まで行かせてもらって不合格になった日には…  怖いぞ。


 本番を想定した毎日の〆のテストでは2回ほど89点以下をとりました。  もちろん罰ゲームで夜中まで標識を書いて翌朝提出。  最高得点は95点ぐらいだったかな?  教官曰く…  「これだけ勉強して100点取れないほうが変じゃないか?」と。  確かにその通りだ!  実技の卒業検定が済んで、いざ筆記試験という数日前には、「今日の〆テストで100点取れない奴は教本を丸写しさせるぞ!」とまで言い出す加熱ぶり。  教官にも責任があるのだろうな。
 過去に筆記試験で不合格になった隊員は存在しないらしい。  これってある意味で凄い事。


 筆記試験当日は制服を着て教習車2台に分乗して愛媛公安委員会に向かいました。  筆記試験の会場は『愛媛公安委員会』と聞かされるまで、松山市が愛媛県だった知らなかった僕。


 その日は当直だったので、教習車の助手席に乗って優雅に愛媛公安委員会まで移動。  ドライバーは学科教官だったのを覚えています。  「本多… おまえは一度も満点を取ってないけど大丈夫かぁ?」  「ひっかけ問題は毎回5問ぐらいあるから落ち着いて問題を読まないとあかんぞ!」と…まるで母親みたいに説教する教官に、「不合格になったらどうなるのか?」と尋ねた僕でした。  だって本番に弱いのは生まれつきなんだもん。


 試験会場はスッゲー大きな建物で、まだ新しかった。  薄い記憶には、海が近かったような??  とにかくキレイな試験会場でした。


 広い部屋に一般の受験者(100人以上)に混じって制服の自衛官が席につきます。
 「なんで自衛隊が居るんだよ?」
 「変なの!」
 と…  制服を着て徒党を組んでいれば、相変わらず好奇の目で見られます。  制帽をとれば二十歳そこそこで坊主頭。  頭が悪そうな顔が売りだから、馬鹿にされても気にしない。  今流行の髪型や服装なんてできない上に、ダサイ色の制服。  こういう時だけは航空自衛隊の紺のスーツが羨ましいぞ!  
 視線を感じて目が合えばさっさとはずされる。  言いたい事があれば言えばいいのに…。


 試験開始まで僕たちは静かに座っているしか術はなく…  喋ったり歩き回ってる一般人をウザったらしく感じ続けていました。


 試験は1時間で終わりました。  1問目から100問目までは僅か20分ぐらいで回答できた。  余った時間で何度も何度も確かめたり訂正したりして100点を狙ってみたけど、100点でも90点でもいいから不合格だけは避けたかったですね。
 結果が出るまでの間、無意味な答え合わせをして過ごしたのですが…  僕、かなり間違えている事に気がついた。  「20問目は×だよなぁ!」  「あの問題は引っ掛け問題だったね!」などと…  トラップにも引っかかってるし(>。<)@  いろいろ聞いてるうちに正直ヤバそうな雰囲気が僕を取り囲んだ。


 結果発表は電光表示板に番号が表示されます。  自分の番号が光らなければ不合格。  それは一斉にドンと発表された。
うちら35人(教育期間の途中で帰らされた隊員が1名いたので1人減ります)の番号は一塊となって光った。  「良かった〜! 合格してたぁ!」  ちょっと腰が抜けた僕でしたよ。


 とりあえずこれで免許証交付。  やっと終わった気がしました。
 合格者はそのまま写真を撮って、免許証が出来上がるまで試験を受けた部屋で待機。  交通安全委員の人が「合格おめでとうございます。 免許証が出来上がるまでちょっと話をさせていただきますね。」と、交通安全の話をされました。
 そして、「今回100点満点で合格された人が20人います。 本当はこういう事は発表しないのですがね…  まぁ20人全員が自衛隊さんという事だけお知らせさせていただきます。」  一般の合格者の人達から拍手を貰った。  さては見直したな?  さっきまで見下していたのに…。


 初めて手にした運転免許証。  血と汗と涙の結晶だと痛感した。  でも坊主頭での写真は嫌だったなぁ。  メガネかけさせられたし…。


 帰り道…  再び学科教官が運転する隣に座った。
 「本多 良かったなぁ合格できて。」と呟かれた。  「僕が何点だったのか教官なら知ってますよね?」  「ああ知ってるよ。」  「え♪ 何点だったのですか?」

 「危なかったなぁ…  91点だったぞ。」と…。
by606