102 大型免許取得 其の壱 |
陸士長に昇級して間もなく、人事課から松山駐屯地内にある自動車教習所(通称:自教)に移動を命じられました。 実際… 大型免許が欲しくて自衛隊に入ったようなもの。 大型免許が欲しくて任期を継続したようなもの。 だけど… そろそろ僕の番だという時期になって自教の恐ろしい噂を嫌というほど耳にするようになりました。 「注意される前に手がでるぞ!」 「気に入られないと大型車の運転席から蹴り落とされるぞ!」 「教官の腹の虫の居所が悪いと教習車にすら触らせてもらえんし!」 「歯が折れるぐらいは普通で、殴られて鼓膜が破れた奴も居たよ!」 「旧陸軍の扱きだな!」 などなど…。 つか… 普通の自動車学校がどういうものかを知らなかったから、気持ち的には新鮮でした。 何よりも嬉しかったのが完成して数日の瀬戸大橋を渡れるのが凄く嬉しかったです。 もっとも電車で渡るので、橋の上を走るのとはちょっと違ったけど… それでも嬉しかったなぁ。 駐屯地から姫路駅まで装甲車で送られて、姫路駅からはJRを乗り継いで松山駅に降り立ちました。 よく知った顔の隊員が10人ぐらい一緒だったので遠足気分♪ 松山駅までの電車賃も駅弁代も皆さんからの血税でまかなわれたのは言うまでもありません。 自分の財布を開く事無く松山駅に到着です。 初めて来た四国松山! 市電が走ってる以外は姫路とそれほど変わらない気がした。 「休みの日は松山城に行ってみたいなぁ♪」 「道後温泉が有名なんだぁ♪」 至る所に『タルト』の看板があったのを覚えています。 松山駅からは自教の教習車で松山駐屯地まで運んでいただきました。 初めて見る町並みが見たかったので、一番後ろの席を奪い合ったよ。 松山駐屯地に到着して最初に感じたのが「豊川駐屯地みたいに古いじゃん!」という事。 今まで陸上自衛隊で一番新しくてキレイな駐屯地に居たので、様々な嫌な事が連想できた。 風呂の汚さ。 ベッドの汚さ。 トイレ・洗面所の汚さ。 案の定、心配というものは現実になるものでして… まぁ慣れるまで我慢するしかありませんでしたね。 居室に案内されて自分の氏名階級が書いてあるベッドを探します。 2段ベッドがズラリと並ぶタコ部屋です。 再び教育隊に戻った感じ。 ベッドの下にはカギのかかるロッカーがあり、頭の横には制服・戦闘服を掛けるロッカーが1つ割り当てられています。 まぁ私物はほとんど無いので1つで十分です。 普段の生活では2つでも足りないのに…。 掲示板には学生時代によくあった掃除する場所と班がルーレットみたいになって週変わりで回すようになってるモノや、明日からの3ヶ月間のスケジュール表などが貼られていた。 運転心得10ヶ条みたいなモノもあったなぁ。 とりあえず自衛隊名物『身辺整理』という事で、今日一日は移動と身辺整理で終わります。 各駐屯地から集まった知らない隊員と喋るのが嫌だったので、ウォークマンで音楽を聴きながらのんびり身辺整理をする。 ベッドは嬉しい事に上の段♪ 通常、下の段のほうが落ち着いて眠れるみたいですが、僕は上のほうが自分の空間が得られるので好きだった。 僕のベッドの下は他の駐屯地から来た陸士長。 背は低かったけど筋肉質で悪ガキそのもの。 なぜか今でも本名を覚えているぐらい個性的な奴で、僕よりも先輩でした。 一応挨拶はしたけどお互い警戒心だけは消さなかったです。 晩飯は同じ駐屯地の知った奴らと徒党を組んで食堂に行きました。 他の駐屯地の食堂は勝手が分からなくて困る。 松山駐屯地は陸曹候補生の部隊もあったので、顔が迷彩色のままテーブルで飯食ってる隊員が多かったですね。 その逆で僕が居た駐屯地みたいに幹部だらけじゃなかったのが良かった。 いちいち敬礼しなくてもいいから誰にも敬礼しないで行き来できたもん。 そんな体力勝負の陸曹候補生だらけの駐屯地だったので飯は凄く美味かったです。 そんな汗と埃と土だらけの陸曹候補生だらけの駐屯地だったので風呂はスッゲー汚かった! 豊川駐屯地よりも汚かった。 湯船は池みたいだったもん! それに半端じゃない混み具合。 出しっぱなしのシャワーで洗っただけ。 イスにも座りたくなかったほど。 脱衣所はスッゲー臭かったし、床は水虫菌だらけみたいだったので、風呂から出て服を着たら外の蛇口で足を洗って水虫予防をしてた僕です。 居室に戻ったらベッドでウォークマン♪ これが一番落ち着けました。 テレビは部屋には置いてなくて、娯楽室という今思えば昭和みたいな名称の部屋に行かなければ見れませんでした。 自分の居室だったら一部屋に3つ4つあって好きな番組のテレビを先輩と見るのが常だったのに… なんて不便なんだろう? トイレも洗面所も少なくて汚い。 また朝からトイレ戦争の毎日だ! その日は居室で国旗降下。 終礼すらなく消灯時間を迎えた。 嵐の前の静けさ。 そうだね。 今思えば本当に嵐の前の静けさだった気がします。 でもあの時は、「明日も今日みたいな一日かなぁ〜♪」って笑顔で眠った。 悪夢の3ヶ月間の始まりまで既に秒読み態勢の静かな夜。 by606 |