101 自衛隊での成人式

 高校を卒業して2年。  自衛隊に入隊して2年。  ところてん方式に僕も二十歳にまで成長して『新成人』となりました。

 酒は高校生の頃から飲んでいたけど、タバコは中隊に配属されて1本だけ口にしたけど…  なにが美味しいのか?なにがイイのか全く分からず今日に至っています。  たぶん死ぬまでタバコは吸わないと思う。 
 なにが成人式なのか…  なにが成人なのか分からないまま、成人式を翌日に控えました。


 前夜は自衛隊の制服をキチンと仕上げて、革靴をピカピカに磨いて準備をした記憶があります。  陸士長の階級章や部隊章がキラキラ輝いて少しウキウキ気分♪
 駐屯地内では形式だけの成人式を前日に済ませました。  1時間弱のつまらない式。  当たり前だけど、晴れ着をまとった成人女性は一人も居ません。  駐屯地司令の昔話を延々と聞かされただけで終わった。  それだけで半日が過ぎる自衛隊。


 当時は1月15日が『成人の日』と定められて、全国的に祝日でした。
 正式な成人式は駐屯地から車で15分ぐらいの市民会館で行われる事になっていました。

 朝はゆっくり準備をして、午前9時過ぎに自衛隊の装甲車に駐屯地の新成人20名ぐらいが乗り込んで市民会館に向かいました。

 と…  ここまでは何も感じなかったし、むしろ同期生や他の中隊の知り合いと集まって喋れる事ができて楽しかったほど。  物語は市民会館に到着した時から始まりました。


 市内の男はピッカピカの乗用車の横でピッカピカのスーツで決めている。  そしてピッカピカの晴れ着女性。  一瞬で世界の違いを思い知った!  装甲車から降りたくない。  装甲車から降りたら、同い年の奴らから間違いなく好奇の目で見られる。  この装甲車だって既に場違いな雰囲気で注目を浴びてる。  とても降りられない!


 なにが恥ずかしいって…  大嫌いな制帽が恥ずかしい(>。<)
 しかも僕らを乗せた装甲車は市民会館の入り口付近に堂々と停車。  年寄り陸曹がハッチを下ろして「はい降りて中に入れ!」と…  既に大注目。  降りたくない。  嗚呼もう帰りたい。

 「あ! 自衛隊さんのお出ましよ♪」

 「うわっダッサ!」

 「目を合わせちゃダメだよ〜!」

 「匍匐前進するんじゃない?」  装甲車から降りただけで散々な言われよう。  早くホールに入って寝たフリしたい!  死んだフリのほうがいいくらい!


 大ホールの中は久しぶりに会う同級生同士で異様に盛り上がっていた。  何処に座ればいいのか全く分からずに、扉の間で戸惑っていたら、「はい! お疲れさん! 自衛隊さんは最前列に席が用意してありますので、どうぞこちらへ!」とマイクを通して案内された。  その瞬間、視線は全部僕らに向けられて、会場がドッと沸いた。


 『建物の中に入ったら制帽は取る』のが自衛隊のルール。  髪の毛を伸ばしていても流行の髪形とは大きく違い…  基本、刈り上げ。  坊主頭の隊員がほとんどなので、着席するまで会場内は笑いが止まらなかった。  ただ歩いてるだけで笑われる僕らって、いったい何者?  一人じゃ静かで大人しいシャバの奴らも集団では無敵と化す姿を見た。  実際、トイレでは逆に目を逸らして下を向いちゃうほど弱い奴ら。  「なんか文句あんのか?」と一人ずつ聞きたかったぐらい。


 昨今の成人式みたいに新成人が暴れだす事も無く、一般の成人式は終わりました。  偉い人の話を散々聞かされ…  新成人を代表して優秀な人がごもとっもな事を語っただけの成人式。 


 「ではこの後は小学校区ごとに各部屋にてお楽しみください!」という司会者。  僕たちは早く帰りたい一心でした。  それなのに「自衛隊さんはワシについて来なさい。」と…  市内の自衛隊協力会とかやらのオジサン一人が部屋まで案内してれた。  豪華な昼飯でも準備してくれてるのかと思ったら、テーブルの上にお菓子が適当にバラして置いてあっただけ。


 両隣の部屋や廊下ではリオのカーニバルのように盛り上がってるのに…  僕たちの部屋では自衛隊協力会のオジサンが一人で昔の自衛隊の事を熱く語っているだけ。  まるで通夜だよ。  思い出話みたいな。


 わーわー盛り上がってる市民会館を出て装甲車に乗って帰りました。


 これが僕の思い出したくもない成人式でした。
by606